先月9日に86歳で亡くなった女優の中村玉緒さんに、夫の勝新太郎さんとのこんなエピソードがある。 酔っぱらって帰宅した勝さんと大げんかになり、思わず手が出て横っ面をひっぱたいてしまった。鬼のような形相の玉緒さんを見て、勝さんは「オイ、いい顔だ! その顔、忘れるな」と言った。怒っていたはずの玉緒さんも「はい」と答えたそうだ。 勝さんはとっさに、映画や舞台で使える表情だと思ったらしい。芸能界でも有名な「おしどり夫婦」だったが、家庭内での立ち回りが演技指導に変わる。いかにも役者夫婦である。 「おしどり夫婦」は中国の故事「鴛鴦(えんおう)の契り」に由来する。鴛はオス、鴦はメスのオシドリを指す。 宋の王が家来の美しい妻を奪い取り、悲嘆した家来は自ら命を絶ってしまう。それを知った妻は、同じ墓に入れてほしいという遺言を残して自殺するが、王はわざと隣り合わせに別々の墓を作る。やがてそれぞれの墓から木が生え、枝や根が絡み合うように成長した。そこにオシドリのつがいが巣を作り、寄り添って鳴き続けたという。 オシドリは仲睦(むつ)まじい夫婦の代名詞になったが、実はペアで行動するのはメスが卵を産むまでで、卵を抱いて温めたり、子育てをするのはすべてメスである。そして次の年には別の相手とつがいになる。 35年に及んだ勝さんと玉緒さんの結婚生活は、山あり谷ありで、いつ別れても不思議ではなかった。勝さんの豪放な遊びっぷりに加えて、勝プロダクションの倒産で多額の負債を抱え、下着の中に大麻とコカインを隠していたとして、ハワイのホノルル空港で逮捕される事件もあった。 トラブル続きだったが、玉緒さんは「天然」の明るさがテレビのバラエティー番組やCMで人気になり、夫を支えた。まさに「破(わ)れ鍋に綴(と)じ蓋」である。平成9(1997)年に65歳で亡くなった勝さんの告別式で、玉緒さんは「生まれ変わっても一緒になりたい」と言った。 厚生労働省が発表した令和7年の人口動態統計(概数)によると、減少する一方だった婚姻件数は、前年に比べ4027組多い48万9119組で、2年連続の増加となった。コロナ禍における急減の反動に加え、自治体の結婚・子育て支援策の効果とみられる。