あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「全東信の破産」について。 * * * 7月6日、クレジットカード決済代行の全東信が破産を大阪地方裁判所に申し立てた。負債は約1200億円で、2026年最大規模の倒産劇だった。 決済代行の役割は大きく2つ。信用のない事業者がクレカで商売できるようにすることと、決済分の早期入金だ。 1987年に大阪南飲食事業協同組合を源流として設立された全東信は、小規模飲食店にクレカの恩恵を広めた救世主だった。 個人的な話になるが、2008年、私はパートナーとビジネスニュースを販売する商売をはじめた。 現在ならnoteでもPayPalでもSquareでも、簡単に利用できるメディアプラットフォームや決済サービスがあふれている。しかし当時の選択肢は銀行振込か引き落としくらいで、クレカ決済をお願いできる業者を探すのは困難だった(最終的に全東信とは別の業者にお願いした)。 全東信の破産が6日だったのは、取引店に対する「月末締め翌月5日支払い」のあとに力尽きたのだろう。だとすると7月1日以降の売上はもう入ってこなくなるわけで、全国の小規模飲食店に衝撃が走った。 もう1つの役割である早期入金についても説明したい。なぜそんなに重要なのかと。みなさんは300万円の預貯金を持っているだろうか。ならば失業しても30万円×10ヵ月は生活できるだろう。ただ、世の中の企業はその姿とはほど遠い。 多くのひとは信じられないだろうが、日本では消費者金融の利用者が1000万人におよぶ。複数利用者がダブルカウントされているとはいえ、途方もない数だ。 私は小学生だった長男を、ある月の25日に消費者金融の前に連れて行き、給料日に借金を返済するひとびとを見せた。「いいか、これが高度資本主義社会の犠牲者だ」。高い金利分を割り引かれても、給料日前にお金を受け取る必要があるひとはたくさんいる。 同様に、決済代行から手数料を割り引かれても、早期に操業金を得たい事業者はいくらでもいる。 たとえば飲食業は、月商に対して現金を平均1.8ヵ月分しか持っていない。1.8ヵ月分の売上が滞ったら現金が底をつく。コロナ禍で飲食店が厳しくなるのは必然だった。なお小売業は平均約1ヵ月分。その他の産業を見ても、1年の余裕があるところなんてない。 さらにいえば、これは年間の平均値。忘年会や歓送迎会など繁忙期前の大量仕入れや、人件費も即金で支払うなら、現金はますます減っていく。飲食店経営者がギリギリを渡っていることがわかるだろう。だから一品でも多く注文してやろうよ。 全東信の破産手続きが進むと、残ったお金は税金の未払いや抵当権を持つ大口の金融機関への弁済に優先して使われる。おそらく飲食店の売上は支払われないだろう。今後はリクルート、楽天の決済サービスなどを並行採用し、リスクを分散する必要がある。 ところで全東信には、20年にわたる粉飾決算や元社員の不正契約容疑による逮捕など語るべき内容がほかにもある。数期前まで黒字決算だったはずが、実際には605億円の債務超過だったというメガトン級の粉飾を、融資していた63もの金融機関が見抜けなかった。すごくない? 息子よ、父が見せたかった資本主義の授業は、まだ続いているらしい。