子ども受難の報道が後を絶たない。先日、高校教員の父親と同職員の母親が、10歳の息子に対し「早く寝ないから」などとして頭や背中などを叩くなどして逮捕された。 危機管理コンサルタントの平塚俊樹氏は、この逮捕についてこう話す。 「逮捕された夫婦は、わが子に手をあげた理由として『約束を破った』『言うことを聞かない』と供述しているそうです。夫婦揃って教育の仕事に従事していながら、このような結末を回避することができなかったことは極めて残念です」 しかし、物理的暴力や性的虐待とは無縁でも、「もしや自分が子にしている行為は心理的虐待なのでは?」と自問自答した経験のある親は意外と多いのでは?と平塚氏。 「児童虐待の中でも圧倒的に事例が多いのが『心理的虐待』です。令和5年度の児童虐待相談件数全体に対して59.8%を占めたといい、親から言動による暴力を受けている子どもがいかに多いのかが伺えます。 ただ、虐待の多さに暗澹たる気持ちになる一方で、ついイライラして、子どもにひどい言葉をかけてしまった経験は、多くの親にあるのではないでしょうか」 今回取材に応えてくれたのは、ある地方都市に住むシングルマザー。離婚後、仕事と育児に追われ、日々戦いのようだと話す44歳の女性である。 「この女性は、育児と仕事の両立が過酷で、日頃から子どもに八つ当たりしてしまうことに悩んでいました。女性は取材の中で、よその家庭の育児を虐待かどうかジャッジする時に壁になるのが、育児の苛立ちへの同情や共感かもしれない、と話しています。自分自身も、人目も憚らず子どもに怒鳴ってしまうことが、実際にあるからだと」 そんな中、この母親はマンションの隣人もしばしば子どもを怒鳴っていることを知っていたという。 「頻繁に怒鳴り声が聞こえてきたものの、子どもの泣き声などは聞かれず、家族で仲良さそうにいる姿を何度も見かけたことがあったため、『お隣も子どもにイライラしているようだ』という程度に思っていたそうです。 お隣と顔を合わせる機会があったなら、その時に挨拶くらいは交わしておけば、後のトラブルを防げたのかもしれません」と平塚氏。 女性はある日の帰宅後、洗濯物を取り込んでいた際、ベランダ越しに隣人の子どもの存在に気がついた。『開けてよ』という声が聞こえてきたのだ。女性は、どうしたの?と声をかけたが返事はなく、子どもは「開けて!」とくり返していた。 「さらにその後『何やってんだよ、バカ!』という怒鳴り声が聞こえたため、何らかの事情で子どもが締め出されてしまったのかもしれないと女性は推理。やがてベランダから子どもの気配はなくなり、怒鳴り声も泣き声もなかったため、やはり大丈夫そうだと判断したのです。 ところが数日後、隣人とマンションのエレベーターで乗り合わせた際、『アンタか、ウチが虐待してるって通報したの。よくもチクりやがったな!』と言いがかりをつけられたといいます。ベランダの一件のあと、児童相談所の職員が隣人宅の様子を見に来たそうなのです」※ マンションの他の住民が通報した可能性を悟った女性だったが、相手はどうやら、数日前にこの女性が、ベランダ越しにわが子に話しかけた声に気が付いていたらしい。 「ベランダでの出来事によって、隣人が通報したに違いないという『思い込み』が生じたのかもしれません。この親は『ウチは口が悪いだけなのに、児童相談所に来られてマジでビビった』と恨み節。女性は否定したものの相手は納得しませんでした。 虐待疑いのある児童を発見した第三者は関係機関に通報しなければならないが、「情報提供者の秘密は守られ、匿名で相談することもできるため、こうしたトラブルは目に見えない所で何例も起きている可能性があります」と平塚氏は述べた。 【関連記事】「アンタの家だってさぁ…」報復の予感にひるんだシングルマザー。その後の「納得いかない結末」とは では、虐待疑いが他人事ではないと思った女性の後日談について詳報している。 【取材協力】危機管理コンサルタント【聞き手・文・編集】佐原みすず PHOTO:Getty Images【出典】令和5年度福祉行政報告例(児童福祉関係の一部)の概況 ※虐待を発見した場合、虐待かもしれないと思った場合には児童相談所など関係機関に相談・通報しますが、相談できる機関はそれぞれの自治体などにご確認ください。