化学機械メーカー「大川原化工機」(横浜市)の冤罪(えんざい)事件で、警視庁公安部と東京地検の捜査を違法と認定した東京高裁判決が確定したことを受け、警視庁の鎌田徹郎副総監と地検の森博英公安部長が20日、同社を訪れて大川原正明社長(76)と島田順司元取締役(72)に直接謝罪した。 鎌田副総監は「捜査で多大なご心労、ご負担をおかけし、申し訳ありませんでした」と頭を下げた。森公安部長も謝罪の言葉を述べた上で「二度とこのようなことがおこらないように適切な検察権行使に努めてまいります」と述べた。 大川原社長は「この謝罪がもっと早い段階でと思っていました。(裁判で)証言した方を大切にして、いい組織、いい警察、いい検察にしていただきたい」と返した。 公安部は2020年3月、軍事転用可能な装置を不正輸出したとする外為法違反容疑で大川原社長と島田元取締役ら3人を逮捕し、いったんは起訴した地検は21年7月に自ら起訴を取り消した。社長らは一貫して謝罪を求めてきたが、警視庁と地検は大川原側が国家賠償訴訟を起こしたことを理由に対応してこなかった。起訴取り消しから約4年がたっての謝罪となった。 大川原側は謝罪とは別に、第三者を加えた捜査の検証を警察・検察に求めている。警視庁と最高検はそれぞれ問題点を検証することは表明したが、内部調査の形で進める方針を示している。 5月28日の東京高裁判決は、公安部は経済産業省の輸出規制省令を国際基準とかけ離れて拡大解釈し、社長らを逮捕したと認定。「公安部の解釈は合理性を欠き、犯罪の容疑の成立に関する判断に基本的な問題があった」とした。島田元取締役に対する公安部警部補の取り調べも、省令の解釈をあえて誤解させるような偽計的な手法が用いられたとした。 また、不正輸出の立証に必要だった装置の温度実験について、公安部と地検は不備を認識しながら追加実験を怠ったと認定。地検についても、省令解釈に疑念を持ち、追加実験を欠く状態での起訴は「有罪と認められる容疑がなかった場合に該当する」と判断した。【岩本桜、木下翔太郎】