2017年10月に神奈川県座間市のアパートで男女9人の遺体が見つかった。この事件の白石隆浩被告(30)に関する、裁判員裁判が東京地裁立川支部(矢野直邦裁判長)で行われている。被害者全員に希死念慮があり、Twitterで自殺に関連した投稿をしていたことから、主な争点は、殺害の承諾があったかどうか。弁護側は、被害者側の、希死念慮の理由に迫り、死の結果を黙示的に承諾していたと主張している。 この事件の被害者が9人。殺害された順にA~Iと呼ぶことを取り決めた。裁判の審議は8月に殺害された3人、9月に殺害された4人、10月に殺害された2人を3つのグループにわけ、それぞれの証拠調べや被告人質問を終えた段階で中間論告を検察側、弁護側双方が行った。 9人の殺害ですべて共通するのは、被害者に希死念慮があったことだ。男性のCさんをのぞく、女性8人は、Twitterに「」を含めた、希死念慮をツイートしていた。 白石被告は、当初は、ヒモになろうと考えていた。17年3月、茨城県内の風俗店で売春をすることを知りながら紹介をした職業安定法違反事件で、執行猶予付きの有罪判決を受けていた。保釈された後、「きちんとした仕事が得られない」と思っていた。実家に戻り、父親と暮らしていたが、実は、このときから、「人を操作すること」を考えていた。事件の1カ月前、自殺をするふりをして、「未遂になったら殺して」などと遺書を書いたという。 「高校時代にも3回、家出をした時に、自殺をするかのようなことを言いました。この時も、書くだけで何もしていません。父に対して、自分が弱っているアピールをするためでした。目的は父にお金を無心するためです。父が遺書を読んだかどうかはわかりませんが、書いた後に、父は態度を軟化させました。効果は発揮しました。保険料や税金も払ってもらいました」 そして、今度は、自殺志願者をターゲットにした。 「スカウト時代から、自殺願望の人は言いなりになりやすいと思っていた」 最初に殺害されたAさん(当時21歳)は、神奈川県内で母と兄の3人暮らしだった。自殺関連のツイートをしていたのを見つけた白石被告は、8月初旬にダイレクトメール(DM)を送った。Aさんは中学時代のいじめやセクシャリティの悩みがあった。高校時代に家出をしたことがあり、帰宅した時に、精神科を受診。適応障害の診断を受ける。 しかし、Aさんは精神科受診を嫌がったのか、途中で通院しなくなる。ただし、悩みがあり、辛い心情を持ち続ける。そのため、市販薬で過量服薬(OD)を繰り返し、精神的に不安定さが続いていた。その後、自殺系サイトを閲覧するようになり、同じように自殺を考えている相手と知り合い、江ノ島で心中をしようとした。しかし、自分だけ命拾いをする。その罪悪感を持ち続け、入院した病院でも、自殺未遂をしている。 17年8月は、ネット心中をしようとして、Aさんだけが助かって1年が経とうとしていた時期だ。白石被告のDMに、Aさんは「本当に殺してもらえるんですか?」と返信している。8月8日、白石被告はAさんと、通信アプリ「カカオトーク」でもやりとりをするようになっていた。この時、白石被告は「ショー」を名乗っていた。 やりとりをしていると、Aさんは白石被告にC(当時20歳・神奈川県)さんを紹介した。Cさんが唯一、男性で、TwitterでのつぶやきからDMのやりとりをしていない。Cさんも、仕事や恋愛、バンド活動で悩んで希死念慮を抱えていた。AさんとCさんは、白石被告を介さずに、すでに知り合っていた。この頃の白石被告は、一緒に死にたいという設定でツイートをしていた。