離合集散して犯罪を繰り返し、治安を脅かしている「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」。暴力団のような上意下達の組織ではなく、SNS(交流サイト)や通信アプリを駆使した匿名性や曖昧な組織構造が特徴だが、背後には暴力団の存在が浮かぶ。異なる組織形態の両者がなぜ結びつくのか-。 「お前、顔覚えたからな」「わしは、一心会の能塚や」 昨年6月上旬の未明、大阪・ミナミの繁華街にあるビル付近で、怒声が響いた。声の主は特定抗争指定暴力団山口組直系「一心会」組長、能塚恵被告(64)=同罪で起訴=ら。大阪府警捜査4課に今年6月、暴力行為処罰法違反容疑で逮捕された。 起訴状によると、被告は組員と共謀し、20代男性を「お前ら、こいつ殺したれ」「お前、誰に向かって言うてんねん」などと脅したとされる。 捜査関係者によると、被告はこうした行為の途中で、ミナミを拠点とするトクリュウのメンバーを複数人集め、「やったれ」「絶対に逃がしたらあかんぞ」などと指示していたという。 被害男性はミナミで客引きをしていたといい、自身の「縄張り」内で勝手に活動されたと感じた被告が因縁をつけたとみられる。 なぜ被告は配下の組員のみならず、トクリュウのメンバーを集めたのか。府警幹部は、「一心会が上位ではあるが、持ちつ持たれつの関係だったトクリュウのメンバーを応援に呼んだのだろう」との見方を示す。 ■双方にメリット トクリュウは、秘匿性の高い通信アプリなどで連絡を取り合うため、メンバー間でも互いの素性を知らないこともある。 SNS上の「闇バイト」募集を通じて、若年層が実行役として加担するケースも目立ち、暴力団のような厳しい組織内のルールに縛られないのも特徴だ。 こうした実態であれば暴力団との付き合いは不要に思えるが、現実にはそうではない。捜査関係者によると、暴力団の縄張りで、無断で違法行為による「シノギ(資金獲得活動)」をすれば、暴力団から攻撃を受けかねない。また、トクリュウ間で抗争に発展する可能性も考慮すると、「『保険』として、暴力団の後ろ盾は欠かせない」のだという。 一方、暴力団関係者によると、暴力団側も組織内で表向きは「トクリュウとは関わらない」との方針を示してはいる。ただ、取り締まりの強化により暴力団としてのシノギが制限される中、こうした制限から一定程度逃れられるトクリュウからの「上納金」に頼らざるを得ない側面もあるという。