合成麻薬フェンタニルを巡り、日本国内に密輸された例はこれまで確認されていない一方、類似物質も規制対象となっているほか、医療関係者を中心に悪用・逮捕の事例がある。 フェンタニルはモルヒネの約100倍ともいわれる鎮痛作用を持ち、医療用としてがん患者などに広く活用される一方で「多幸感を得られる」として悪用されてきた。高い依存性があり、少量で死に至る危険性もある。 厚生労働省関係者や捜査関係者によると、国内への密輸は確認されていない。一方で同様の作用を持つフェンタニルに似た物質が国内で確認され、平成30年には強力な「カルフェンタニル」が麻薬指定されるなどした。現在は20種類以上の類似物質が麻薬取締法の規制対象になっている。 また、医療用の悪用が相次ぐ。宮城県警は今年1月、フェンタニルを不正に所持し、自らに注射したとして、麻薬取締法違反容疑で麻酔科医を逮捕した。令和5年には、交際相手の男性にフェンタニルを含む貼り薬を数枚貼りつけ、中毒死させたとして、警視庁が傷害致死容疑などで無職の女を逮捕。貼り薬は女が持病の治療のために処方されたもので、男性は1日の処方量の4~5倍程度を貼付され急死した。 これまでも各都道府県は医療機関へ定期的に検査を行い、流出などを警戒。今年6月に厚労省は全国の麻薬取締部・都道府県へ通知を発出した。密造を防ぐため、原料の輸出入、小売りなどを行う事業者が不審な取引を確認した場合や在庫の紛失などがあった際、自治体などへ届け出ることなどを促した。愛知県では事業者への立ち入り検査も行われた。 警察関係者も以前から流通動向を注視。警察庁の楠芳伸長官は今月3日、「刑事事件として取り扱うべきものがあれば厳正に対処する」と述べ、関係省庁や国際機関と連携した取り締まりの意向を示した。(内田優作、緒方優子) ■「水際対策重要に」 元近畿厚生局麻薬取締部捜査1課長・薬剤師 高濱良次氏の話 フェンタニルは効果時間が短く、何回も服用することで中毒性が強まる特徴がある。服用によって無気力になり、使用量が多ければ容易に死に至る。