米コロンビア大学で昨年続いた、パレスチナ・ガザでの戦争をめぐる抗議活動に参加したとして、今年3月から100日以上にわたり移民管理当局に拘束されていた、シリア出身の同大の元大学院生マフムード・ハリル氏が10日、ドナルド・トランプ政権に対し、2000万ドル(約29億円)の損害賠償を求める訴訟を起こした。 ニューヨークにあるコロンビア大学で昨年、パレスチナ支持活動の中心的存在となったハリル氏は、今年3月8日に拘束された。 アメリカ政府は、ハリル氏の活動がアメリカの外交政策を妨げるものだとして、国外追放する方針だった。 しかし、ニュージャージー州の連邦地方裁判所は先月20日、ハリル氏が逃亡したり、地域社会に脅威を与えたりする恐れがないと判断し、同氏の入管関連手続きが続く中での保釈を認めた。ハリル氏は同日、ルイジアナ州の留置施設から保釈された。 ■「不当な拘束、悪意ある訴追」に直面 ハリル氏を支援・弁護する人権団体「憲法権利センター(CCR)」は10日、政権の動きは不当な拘束かつ悪意のある訴追で、ハリル氏を反ユダヤ主義者であるかのように中傷するものだと主張。損害賠償金2000万ドルか、公式謝罪および政権の違憲政策の放棄か、どちらかを求めた。 CCRの弁護団は声明で、ハリル氏は賠償金が得られた場合は、自分と同じようにトランプ政権やコロンビア大学の標的にされた人を支援する資金にする方針だと説明している。 弁護団は、ハリル氏が不当に逮捕・拘束され、悪意のある訴追や手続きの乱用に直面したほか、意図的に精神的苦痛を与えられ、精神的苦痛につながる過失行為を受けたと主張。そして、これらの「損害」が発生したのは、マルコ・ルビオ米国務長官がハリル氏のことを「アメリカの外交政策に深刻な悪影響を及ぼしている」と判断したからだと、原因はルビオ長官にあると主張した。 弁護団はさらに、ルビオ長官はその判断を根拠に、「イスラエルによるガザでのジェノサイド(集団虐殺)と、それを支持するアメリカの姿勢に対する抗議活動に参加した」アメリカ国籍を持たない市民を標的にしたと主張した。 イスラエルは、パレスチナ自治区でジェノサイドは行っていないと主張している。 米国土安全保障省のトリシア・マクラフリン報道官は声明で、ハリル氏側の主張は「ばかげている」とし、同氏はユダヤ系学生を脅かすような「憎悪的な言動」を重ねていたのだと非難したという。AP通信が伝えた。 BBCは米移民税関捜査局(ICE)にコメントを求めている。 ■学生や社会に「萎縮効果」与えた ハリル氏は、自分を拘束した責任をトランプ政権に負わせるつもりだとAP通信に語った。加えて、「このような手口が、パレスチナを支持する団体や学生全般、そしてアメリカ社会に与えた萎縮(いしゅく)効果」についても責任を追及するとした。 ハリル氏は、トランプ政権が「自分やほかの人たちに対して行った不正行為」について、賠償金もしくは公式な謝罪を求めると述べた。 「政権は、私に対してあることをしようとした。その試みは失敗に終わったが、それをやろうとしたこと自体によって、すでに損害が生じている。自分たちがこれについて何かしら責任を負うと政権が感じない限り、この政権は今後もやりたい放題するはずだ」 アメリカ永住権を持つハリル氏は3月、ニューヨークの自宅で、妊娠中の妻の目の前で拘束された。息子はハリル氏の勾留中に生まれた。 自分が第一子の誕生に立ち会えなかったことは「決して許せない」と、ハリル氏は語っている。 ハリル氏はシリアのパレスチナ難民キャンプで生まれ育ち、2022年に学生ビザでアメリカに留学した。 昨年のコロンビア大学でのパレスチナを支持する抗議活動では、学生側の交渉責任者を務めた。 同様にイスラエルによるガザ攻撃を批判し、米当局に拘束された、トルコ出身の米タフツ大学の学生ルメイサ・オズトゥルク氏や、インド出身の米ジョージタウン大学の研究者バダル・カーン・スリ氏は、5月にそれぞれ釈放された。 (英語記事 Mahmoud Khalil files $20m claim against Trump administration)