同僚を殺めて現場から逃走、整形して人相を変えてまで…「松山ホステス殺害事件」犯人女性の5459日にも及ぶ逃亡生活から見えるもの――映画『私の見た世界』(7月26日公開)

《生きていれば、どんな人でも、できれば逃げ通したいものに出会う。しかし、「逃げる」ということは、「追われる」ということだ。いったいどうしたら「解放」されるのだろう?》 俳優の石田えりさんが初となる長編監督映画『私の見た世界』を完成させた。1982年、愛媛で起きた「松山ホステス殺害事件」の逃亡犯・福田和子の半生を、彼女の目に映った世界として見せる作品だ。石田さんは脚本と編集、そして主人公を演じながら私たちに投げかけたその問いの答えに辿り着こうとしている。 「当時の報道は同僚を殺めた彼女が現場から逃走し、その後、整形して人相を変えてまで逃げ続ける様子を伝えていました。彼女の行動は世間を敵に回すことも厭わない強い意志が溢れていた。それが後になって、犯した罪以外のたとえば母親としての一面などを知って、どこかそれまでのイメージとは違う人物像を感じるようになったんです」 福田和子の逃亡は約15年、5459日に及んだ。 松山を離れた彼女は、流れ着いた見知らぬ土地でスナックのママに拾われ働くことになる。やがて和菓子店を営む客に見初められると、そこを止まり木に夫婦のような時を過ごした。しかし、警察の気配を察すると、暮らしを捨てモーテルの客室清掃や飲食店の仕事を転々とするのだった。 「私たちは日々様々な人と出会い暮らしていますよね。良い人、悪い人、善良に見えて何か思惑を持っている人――。人間の心の奥にあるものが、追われる者の目に透けて映っていく。そうやって彼女は幾つもの目に晒されていきます」 石田さんが福田和子の身体を“借りて”まで本作を届けようとしたのはなぜか。それはある体験から始まっている。 「逃げても逃げても何かに追われる恐ろしい夢を見ました。もう逃げられないと観念したところで、勇気を出して追って来るものと向き合った。そうしたら、消えたんです。それから数日後、谷川俊太郎さんが同じような夢体験をテレビで話されていて驚きました」 そこで掴んだものが逃亡犯の半生と交錯した。福田和子は時効成立まで残り21日と迫った1997年7月29日、警察に逮捕された。 「最後、彼女は逃げなかった。手配犯である自分を疑う他人の目、逃げ出したい衝動――それらと対峙したのだと私は思うんです。嫌なこと、面倒なことは沢山あるけど、自分からは逃れられない。じゃあどうすればいいか。そのヒントを作品から感じてもらいたい、そう思っています」 福田和子が行く先で出会う人物を演じるのは大島蓉子や佐野史郎。彼らの目は、あなたに何を語りかけるだろうか。 いしだえり/熊本県出身。映画『遠雷』(1980)で日本アカデミー賞優秀主演女優賞、新人俳優賞受賞。第41回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品『嵐が丘』(88)、第64回ヴェネチア国際映画祭オープニング作品『サッド ヴァケイション』(2007)などに出演。19年、短編映画『CONTROL』で初監督。『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』(21)でハリウッドデビュー。 INFORMATIONアイコン映画『私の見た世界』(7月26日公開) シアター・イメージフォーラム(渋谷)ほか全国順次公開。 https://watashinomitasekai.com/

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