下の写真をみていただきたい。バスローブ姿の男性の横で、女性が生気を失ったかのように両手を下げて俯(うつむ)いている。筆者が事件の関係者から入手した動画には、夜の街に蔓延(まんえん)する″薬物パーティ″の一部始終が収められていた――。 写真に映っている男性は、不動産投資会社「レーサム」の元会長・田中剛被告(60)だ。田中被告は昨年6月24日、東京都千代田区の高級ホテルの客室で覚醒剤やコカインを所持していたとして、今年5月12日に覚醒剤取締法違反などの容疑で逮捕された。 「この事件では、同室にいた元レースクイーンのAと現役女子大生のBも逮捕されています(ともに不起訴)。警察は、3人がホテルの客室内で一緒に薬物を所持・使用したと睨んだようです」(全国紙社会部記者) 一代で上場企業を作り上げた経営者と元レースクイーン、そして女子大生。なんの関わりもない3人を結び付けたのは、違法薬物を使用しながらの性行為「キメセク」の相手を男性客に派遣するブローカーだった。六本木を根城に路上スカウトとして活動するX氏が打ち明ける。 「AとBは、同じスカウトグループを通して田中のもとに派遣されていたと聞きました。このスカウトグループは風俗やキャバクラへの人材紹介をメインにしていたのですが、ここ数年はキメセク要員の派遣もやっていたそうです」 田中被告は闇の業者の間では太客として知られた存在だったという。 「派遣料の相場はキメセク要員一人につき一晩10万~30万円なのですが、数百万円支払う太客がいると1年前から噂になっていた。しかもその太客、性行為にはあまり興味がなく、女性同士を絡ませたり、薬の影響で酩酊する女性を見て楽しんだりしていたそうです……。その太客がレーサムの田中だと知ったのは、事件が報道された後のことです」(別の路上スカウトK氏) 「キメセク」に用いられる代表的なセックスドラッグには、覚醒剤やコカイン、MDMAがあり、いずれも通常のセックスの何十倍、何百倍の快感が得られるという。前出のK氏は「強烈な快楽こそがキメセクの怖さです」と続ける。 「キメセクの快楽を一度味わうと脳に刻み込まれて二度と忘れられなくなる。誘惑に抗うのは容易ではなく、堕ちるところまで堕ちてしまうのです……」 ◆相手を探すためにトー横で未成年女性を騙すことも… キメセク要員の派遣がビジネスとして隆盛したのはコロナ禍以降だという。 「以前は、薬物依存者が集うネット掲示板でキメセク相手を探すか、馴染(なじ)みの売人に紹介してもらうのが一般的でした。話に乗ってくる女には『小遣いがもらえる上にタダでクスリを使える』というメリットがあった。しかし、キメセクの相手を『警察呼ぶよ』などと脅してカネを取るような女も一定数いました。 そこで、富裕層を中心に″素性がある程度確かで信頼できるキメセク要員″を派遣するサービスの需要が高まったわけです。コロナ禍では風俗店やキャバクラの休業が相次ぎ、女性が余っていた。そこに目をつけた多くのスカウト業者がキメセク要員の派遣に参入したことも追い風となりました。業者の多くは客同士の口コミやクスリの売人に繋いでもらう形で顧客を獲得していった。最近は中国人をはじめとした訪日客を相手に商売している業者もいます」(同前) 実際にキメセク要員として派遣されているのは、どのような女性たちなのか。 「薬物依存者もいれば、年齢を重ねて思うように稼げなくなった風俗嬢もいます。ただ、客の中には″プロ″ではなく一般女性とのキメセクを求める人が少なからずいる。その場合は高額を提示するか、『クスリはやらなくていい』などと騙して、薬物も風俗も未経験の女性を派遣します。 トー横界隈で、青少年保護のボランティアを装って未成年女性に近づき、キメセク要員としてスカウトしている連中もいる。キメセクを経験させるとハマってしまい『次の仕事はいつ?』って向こうからせがんでくるようになる」(同前) 実際にブローカーに騙された20代の女性は、恐怖の一夜をこう振り返った。 「一晩50万円という破格の報酬で、『性行為もしなくていい』というので現場に行きました。すると、客の中年の男がスプーンに乗せた白い粉を火で炙り、煙を吸うように言われました。吸ったふりをして行為に及びましたが、相手はまったくイカない。3時間くらいぶっ通しで愛撫されたりして苦痛でした……」 闇の業者に食い物にされる女性が後を絶たない状況に、加藤・轟木法律事務所の加藤博太郎弁護士はこう警鐘を鳴らす。 「女性に『お前も共犯だ』などと言って、警察への通報を躊躇(ちゅうちょ)させるのがキメセクブローカーたちの常套手段です。これは単なる脅しではなく、警察が薬物の使用を強要された女性を違法薬物の使用容疑で逮捕したケースは実際にある。声を上げられず、繰り返し薬物強要の被害に遭っている女性は少なくない」 関わる者すべてを破滅させるキメセクには、ゼッタイに手を出してはいけない。 『FRIDAY』2025年8月1日号より 取材・文:奥窪 優木