小さな痕跡からでも容疑者を見つけ出す 大井署交通課交通捜査係・早坂賢治警部補(58) 都民の警察官

「交通捜査をきわめたい」。そんな思いを胸に、勤続40年余りのうち、37年以上を交通部門で過ごしてきた。 さまざまな交通事故・事件の捜査に従事。ある時は途方もない量の映像や過去のデータを調べ上げ、またある時は足取りを推測した見当たり捜査で、容疑者の特定や摘発につなげた。 平成28年、警視庁交通部交通捜査課でひき逃げ犯の担当主任だったとき、自転車によるひき逃げ事件を担当した。重傷を負った被害者は、幼児。自分の身に何が起こったのか、説明できない。現場には複数の人が居合わせたものの、その瞬間を目撃した人はいなかった。 車の場合は防犯カメラの映像から車種やナンバーを特定しやすいが、自転車はそうした識別が難しく、特定の難度が高い。現場付近の約200個の防犯カメラの映像をつなぎ、リレー捜査を試みたが、容疑者の特定には至らなかった。「幼児が被害者になると社会的にも反響が大きい。ちゃんと捕まるというイメージをつけたい」という強い覚悟から、見当たり捜査に切り替えた。 人相、着衣、姿勢、持ち物、自転車をこぐ時のクセ…。防犯カメラの映像から読み取った情報を、すべて頭にインプット。容疑者の足取りを考えながら、現場の近隣の道路や駅周辺で徹底的に捜査を進めた。 およそ半年、根気強く見当たり捜査を続けた結果、容疑者らしき人物の住居を特定。容疑者は少年で、事件後、逮捕を恐れて自転車に乗るのを控え、防犯カメラのある場所を避けていたという。捜査が難航したのはそのためだった。 「小さな痕跡から被疑者を特定することに、達成感がある」と、交通部門の仕事の醍醐味を語る。 妻と双子の娘と息子、息子の妻も警視庁に勤務する。「いい職場」-。子供たちの前では、自分の仕事について日頃からそう話していた。 今回の受章は恥ずかしさもあり、「家族には直接伝えていなかった」。子供たちはそれぞれ、職場の上司から「お父さん受章が決まったよ」と言われて初めて知ったという。 長年、交通捜査に携わってきた警察人生で、貫いてきた信念がある。「(容疑者を)つかまえてもらいたいという、被害者や、その家族の思いに応えたい」。その思いは今も、これからも、変わらない。(長谷川あかり)

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