《ブラジル》WSJがモラエス判事批判=ブラジル最高裁に〝クーデター〟懸念

ブラジル最高裁をめぐる動向に、国際社会の関心が高まる。11日付BBCブラジルなどによると、米ウォール・ストリート・ジャーナルは、アレッシャンドレ・デ・モラエス最高裁判事による司法判断は、言論統制や恣意的な捜査であり「クーデター」だと断じ、「法の支配」が大きく揺らいでいると警鐘を鳴らしている。 同紙10日付で掲載されたコラムにおいて、保守系コラムニストのメアリー・アナスタシア・オグレディ氏は、「ブラジルが再び独裁政権に戻ることを食い止めるにはまだ遅すぎることはない」と主張し、米大陸における自由が「冷戦以来の未曾有の危機に直面している」と論じた。彼女は長年にわたり中南米政治・経済をテーマにWSJで執筆しており、一般的にかなり右寄り・市場自由主義寄りの論調で知られている。 彼女は同コラムで、21世紀の「強権的な人物たち」が、ウゴ・チャベス・ベネズエラ前大統領が行ったように、人気のあるうちに民主的制度を掌握し、その後、政敵を逮捕あるいは国外追放させた手法を模倣していると警告を発した。 ラ米の左派政権に対し批判的立場を取ってきたオグレディ氏は、最高裁が19年に開始した「フェイクニュース捜査」の設置経緯を取り上げ、同捜査が法的に物議を醸した点に言及した。この捜査は、当時の最高裁長官ジアス・トフォリ氏の直接的判断により、連邦検察庁の関与を経ずに開始された。憲法上、刑事捜査と起訴の責任を担うとされる検察庁を介さずに始まったことを問題視。 「ブラジル国民の憲法上の権利の侵害であり、本来であれば、刑事訴追は地域裁判所において、地域検察官の手によって進められるべきである」と強く批判した。 ただし、最高裁は20年6月の審理で同捜査を合法と認定し、「最高裁自身およびその構成員に対する犯罪的攻撃があった場合、それが国家の権力機関、法の支配、民主主義に対する脅威であると判断される場合には、最高裁が独自に捜査を開始することができる」との判断を示した。 同コラムは、モラエス判事が「当時の大統領ボルソナロ氏に対する反対姿勢で知られていた」ことを踏まえ、トフォリ氏が「モラエス氏を『指名するかのように』捜査を委ねた」と指摘。本来は無作為で決定されるべき担当判事が、意図的に選ばれたとする見方を提示した。 オグレディ氏は、21年に開始された「デジタル・ミリシア(ネット犯罪者)捜査」にも言及し、「意見が『受け入れがたい』と見なされたブラジル人に対して、裁判所がコンテンツの検閲や収益化の停止を強いた」と非難した。 三権中枢施設襲撃事件についても、オグレディ氏は「軍施設前での平和的抗議」と形容し、「関与者の大多数は、武装せず、ただ敷地内を彷徨っていたスニーカー姿の愚か者の群れのように見えた」と表現した。同事件に関連して約1500人が拘束され、一部は裁判なしに最大1年間にわたって勾留された事実を挙げ、軽微な犯罪に対して「不当に厳しい刑罰が科された」と批判した。 コラムは「ボルソナロ氏について読者がどう考えるかは関係ないが、政治が裁判所を支配していることは明白」と論じ、議会内で進められているモラエス判事に対する弾劾の動きに言及。「権力に酔いしれる裁判官に対してエリート層が不満を示し始めている」と指摘した。 オグレディ氏は最後に、モラエス判事に対して米国がマグニツキー法に基づく制裁を科したことが、「他の裁判官たちの関心を呼び起こしたようだ」と指摘。「この制裁は最高裁内部における司法の独立性回復への契機となり得る」とし、「ブラジルが法の支配を回復できなければ、より厳しい国際的制裁が科される可能性を、裁判官たちも認識しているはずだ」と警鐘を鳴らした。 最高裁は7月30日、モラエス判事への米国による制裁を批判する声明を発表し、「ブラジルの民主主義に対する深刻な攻撃を伴う犯罪の審理は、憲法上、完全に独立した国内司法の専管事項である」と強調。さらに、調査においては、公人に対する暗殺計画を含む重大犯罪の証拠が発見されたとして、「報告官によって下されたすべての決定は、所定の合議体によって承認されている」と説明している。

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