アブレゴ=ガルシア氏、当局が再拘束するも裁判所が国外追放を一時差し止め 米が送還後に帰還と釈放

今年3月にアメリカ政府の「手違い」で出身国の中米エルサルバドルに強制送還され、その後、密入国あっせんなどの罪でアメリカ当局に刑事訴追されたため同国に帰還していたキルマー・アブレゴ=ガルシア氏(29)をめぐり、トランプ政権と弁護団や裁判所の対立が続いている。22日に釈放された同氏が25日、当局の命令を受けて出頭すると再び拘束されたが、弁護団の請求を受けてメリーランド州の連邦地裁は同氏の国外追放を一時的に差し止める命令を下した。 米政府はアブレゴ=ガルシア氏をいったん22日に釈放したものの、移民関税執行局(ICE)はそれから間もなく、同氏をアフリカ東部ウガンダに強制移送する可能性を通告。同氏の弁護団は23日、未決の刑事事件について司法取引を拒否したことを受けての、当局の対応だと主張する内容を、テネシー州の連邦地裁に提出した。 ICEはさらに、釈放したアブレゴ=ガルシア氏に対して、25日に移民手続きのための出頭を命令。メリーランド州在住の同氏が同日朝に同州ボルティモアのICE事務所に出頭すると、ICEは同氏を再び拘束し、近く国外に追放すると伝えた。 アブレゴ=ガルシア氏はICE事務所に入る前、外に集まった支持者などに向けて、「皆さん、私の名前はキルマー・アブレゴ=ガルシアです」と述べた。 「今日の私は誇りを持って言える。私は自由で、家族と再会しました。そのことを皆さんには、ずっと覚えていてもらいたい」と同氏は続けた。この直後に、ICEは同氏を再び拘束した。 アブレゴ=ガルシア氏の弁護団によると、ICEは同氏をヴァージニア州の施設で拘束。未決事件についての司法取引とそれに伴う中米コスタリカへの追放を同氏が拒否したため、ウガンダに追放する可能性があると、ICEは同氏に通告したという。 アブレゴ=ガルシア氏はその後、自分があらためて拘束されている現状と「ウガンダまたは他国」への強制移送に対し、弁護団を通じて異議を申し立て、メリーランド州の連邦地裁に提訴。裁判が行われるまでの間、国外移送を差し止めるよう請求した。 これを受けて連邦地裁のポーラ・ジニス判事は25日、アブレゴ=ガルシア氏の訴えについて審理するまで、政府による追放を差し止めると命令した。また、政府が同氏をウガンダに追放しようとしている意図を疑問視し、同氏がウガンダで危害を受けることはないと、アメリカ政府が保証できていないと指摘した。 ■判事は司法取引の条件も疑問視 ジニス判事はさらに、当局がアブレゴ=ガルシア氏に提示した司法取引の内容を疑問視。特に、訴追事案について有罪を認めなかったことを理由に、同氏を縁もゆかりもない国に追放するという政府の姿勢に懸念を示した。 「そのようなことは許されないと、私ははっきりそう考える」とジニス判事は述べた。「憲法上の権利の放棄を、そのような形で取引の条件にすることはできない」、「そんなことをすれば、誰も合意の上で自発的に有罪を認めたりしなくなる」とも述べた。 アブレゴ=ガルシア氏の弁護団によると、テネシー州の刑務所に収監されていた同氏が22日に釈放される見通しとなったのを踏まえ、連邦当局は21日の時点で、密入国あっせんの罪について司法取引を提案。アブレゴ=ガルシア氏がこの事件で有罪を認めれば、刑期を満了後、コスタリカに移送するともちかけていた。コスタリカ政府は、同氏を難民として受け入れ、法的地位を与えると約束していたという。 ジニス判事は、アブレゴ=ガルシア氏が米当局の手違いで今年3月にエルサルバドルに送還された際の、最初の訴訟も担当していた。 政権は3月、アブレゴ=ガルシア氏がギャング団「MS-13」のメンバーだとして強制送還した。アブレゴ=ガルシア氏は、自分はギャングのメンバーではないと主張してきた。 同氏は10代だった2011年に、エルサルバドルからアメリカに不法入国した。2019年にメリーランド州で別の男性3人と共に逮捕され、連邦移民当局の施設で拘束されたが、エルサルバドルのギャングから迫害される恐れがあるとして、強制送還を差し止める保護処分の対象になった。 トランプ政権は現在、2件の裁判所命令により、27日午後までアブレゴ=ガルシア氏を米本土から送還することを禁じられている。 政府のドリュー・エンサイン弁護士はジニス判事に対し、「私の理解では、追放の期日は差し迫っていない」と説明し、「第三国への移送には時間がかかる」とも述べた。 判事は、追放を禁止する裁判所命令が有効な間に政府がアブレゴ=ガルシア氏を国外追放することは「絶対に禁じられている」と強調した。 アブレゴ=ガルシア氏の代理を務めるサイモン・サンドヴァル=モシェンバーグ弁護士によると、同氏は現在ヴァージニア州の施設に収容されている。同弁護士は、審理に出廷しやすい状態を確保するため、同氏を裁判所から200マイル(約320キロ)以内にとどめるよう判事に求めた。 ジニス判事は、政府とアブレゴ=ガルシア氏の弁護団の双方に、意見書を今週中に提出するよう指示。それをもって審理を開くとした。 ■ウガンダ移送の手続き中と政権 国土安全保障省のクリスティ・ノーム長官は声明で、アブレゴ=ガルシア氏の逮捕を認め、ICEが「移送手続きを進めている」と述べた。その後、同省はソーシャルメディア「X」で同氏を「ウガンダへ移送する手続き中」だと投稿した。 トランプ政権はこの日、今回の対応を正当化するため、アブレゴ=ガルシア氏は犯罪者だとする主張を繰り返した。ホワイトハウスの公式Xアカウントは、同氏の似顔絵の下に「MS-13」と大きく書かれた画像を投稿した。国土安全保障省のアカウントは、手錠をかけられた同氏を連行する動画と共に、「この男はここにいるべきではない」「いなくなってせいせいする」などと投稿した。 ノーム長官は声明で、同氏が人身売買と家庭内暴力の罪を犯したと主張し、「ドナルド・トランプ大統領は、これ以上この男がアメリカ市民を脅かすことを許さない」と述べた。 これに対して同氏の弁護団は、米政府が「世界の反対側」に再び追放すると脅すことで、有罪を認めるよう強要していると非難。「(政権が)彼を拘束した理由はただひとつ、彼が憲法上の権利を行使したことに対して、報復するためだ」とサンドヴァル=モシェンバーグ弁護士はICE前で記者団に語った。 同弁護士によると、ICE職員は理由の説明なしにアブレゴ=ガルシア氏を拘束。どの収容施設に移送されるかも明かさなかったという。 サンドヴァル=モシェンバーグ弁護士は、同氏が足首に監視装置を装着し「事実上の自宅軟禁状態」にあったことから、拘束の理由はないと主張している。 トランプ政権はこのほど、違法移民対策の一環として、ホンジュラスおよびウガンダとの間で2国間送還協定を締結している。ウガンダ外務省は21日、「出身国に帰国したくない、または帰国に懸念を抱く第3国出身者」について、アメリカと一時的な合意に達したと発表した。ただし、ウガンダはアフリカ諸国出身者の受け入れを優先し、犯罪歴のある者や単独渡航の未成年者は受け入れないとしている。 アブレゴ=ガルシア氏は3月に母国エルサルバドルへ送還され、現地の悪名高い巨大刑務所「テロ監禁センター(CECOT)」に収容された。しかし、米政府当局が「行政上の誤り」による送還だったと認めた後、裁判官が同氏の帰国を「容易にする」よう命じた。 その結果、同氏は6月初旬にアメリカへ戻され、テネシー州に送致され、密入国あっせん計画に関する罪で起訴された。同氏は罪状を否認している。 テネシー州の連邦判事は6月下旬、アブレゴ=ガルシア氏は釈放される資格があると判断したが、同氏の弁護団が、刑務所を離れれば即座に再送還される可能性があると懸念したため、施設にとどまっていた。 (英語記事 Judge temporarily blocks Abrego Garcia's deportation)

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