美術品における「贋作(がんさく)」とは何か-。「天才贋作師」と呼ばれるドイツのウォルフガング・ベルトラッキ氏が手掛けた贋作「少女と白鳥」を所蔵する高知県立美術館(高知市)で、贋作にスポットを当てた特別展が開かれている。「少女と白鳥」を贋作と結論付けた証拠や科学調査の手法、関係者の証言などをパネルで展示し、ベルトラッキ氏の巧妙な手口をひもとく。安田篤生館長は「展示を通して専門家も欺かれる贋作という問題について考える機会になれば。それが贋作に翻弄された美術館の責務だ」と話す。 ■仕組み知り尽くす 「少女と白鳥」は同館が平成8年、名古屋市内の画廊からドイツの画家ハインリヒ・カンペンドンク(1889~1957年)の作品として1800万円で購入したが、昨年6月になって「偽物ではないか」との通報が寄せられた。 調査した結果、2011年に実刑判決を受けたベルトラッキ氏による贋作疑いのリストに作品が含まれていることが分かり、科学調査も踏まえて贋作と判明した。 同館が購入する以前も含め約30年間、関係者らを「本物」と欺き続けてきた「少女と白鳥」。なぜ贋作と見抜けなかったのか。塚本麻莉主任学芸員は「作品の偽装に加え、美術品流通の仕組みを知り尽くした巧妙な手口だった」と指摘する。 ■同様の手口で100点 同館によると、芸術家が一定の評価を受けると、作品研究のために図版や制作年、所蔵者などを網羅した「作品総目録」(カタログ・レゾネ)が作成される。カンペンドンクのレゾネには「少女と白鳥」の名はあったものの、図版やサイズは記載がなかった。 そこに目を付けたベルトラッキ氏は、カンペンドンクの作風をまねた想像上の「少女と白鳥」を制作。ドイツで活躍し、先の大戦中に収集品が散逸したという逸話が残る有名美術コレクターの所蔵品だったことを示すラベルも偽造した。 さらに妻と共謀し、妻の祖父が所蔵していたことにして「行方不明だった幻の作品」というストーリーをでっちあげ、レゾネを編集した研究者によって真作と鑑定された。こうして1995年に世界的に著名なオークションに出品されることで流通ルートに乗った。 同館の依頼を受けて調査を監修した京都大の田口かおり准教授(保存修復・美術史)は「一度お墨付きを得た作品の評価を覆すのは難しい。贋作が成功する条件を巧みに満たしていた」と打ち明ける。実際にベルトラッキ氏は1980年代半ばから活動し、同様の手口で約100点もの贋作を手掛けた。被害総額は少なくとも3500万ユーロ(当時で約56億円)に上り、いかに多くの美術関係者がだまされていたかがうかがえる。