日常に潜む謎、犯罪者のためのホテル、天才のそばにいる人々…様々な舞台で繰り広げられるとっておきのエンタメ小説6冊を、大矢博子が紹介!(Bookレビュー)

もうすぐ中秋の名月。秋の夜長を楽しめるような、バラエティに富んだエンタメ小説6冊を、文芸評論家の大矢博子がご紹介します。 *** お気に入りのミステリの、第二弾が出た。笛吹太郎『コージーボーイズ、あるいは四度ドアを開く』(東京創元社)だ。前作『コージーボーイズ、あるいは消えた居酒屋の謎』に引き続き、ミステリ好きの面々がカフェに集い、最近起きた不可解な出来事についてああだこうだと推理するというもの。だが最終的に謎を解くのはそばで話を聞いていたカフェのマスターで──と言えばおわかりの通り、アイザック・アシモフ『黒後家蜘蛛の会』へのオマージュである。 収録作は7篇。夜にリコーダーでゲーム音楽を吹く男の謎、無意識に食べたクッキーのキャラクターは何だったか、スナックのママが最悪の一日を予言できたのはなぜか……などなど魅力的な日常の謎がてんこもりだ。特に感心したのが、作家である父の書棚からデビュー作の初版が消えたという表題作。その在処を示すクイズからの論理の発展が意外にして鮮やか、さらに真相を知ると切なくも温かな気持ちになる。実に秀逸なミステリだ。 あるはずなのに見つからない居酒屋を探す「コージーボーイズ、あるいはふたたび消えた居酒屋の謎」もいい。盲点をうまく突いた構造もさることながら、その店のマスコットの意味がわかったときのメンバーの感想「なるほど。でも、くだらないっ」に思わず笑みが溢れた。 日常の謎とはつまり、殺人などとは違って誰にでも起きうる出来事と言い換えることができる。本書に出てくる謎の数々は「自分もやるかも」と思えるものが大半で、だからこそ真相に納得してしまうのだ。コーヒー片手にのんびり楽しく味わえる一冊である。

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