こういうアクション映画を待っていた! 『プロセキューター』はドニー・イェンの新たな快作

頑固一徹ドニー・イェン! 『プロセキューター』(2024年)は、ドニーさんの魅力が最大限に引き出された“ドニーさん映画”の新たな快作だ。 熱血刑事のフォク(ドニー・イェン)は、部下たちと共に武装強盗団のアジトへ突撃。廃墟の中で大乱闘を繰り広げて全員を逮捕する。しかし、その首領が「心霊スポット巡りをしていた」という噓八百をブチかまして無罪放免。フォクは警察として悪と戦うことに限界を感じ、検事への転職を決意。7年の猛勉強で無事に検事へ再就職する。しかし、その初仕事には、さっそく司法の矛盾と巨大な陰謀が絡んでいて……。 ドニーさんといえば、今や世界的な大スターだ。『ジョン・ウィック:コンセクエンス』(2023年)で盲目の暗殺者に扮して、その圧倒的な技量を見せつけた。そしてドニーさんといえば……熱血漢である。本人のインタビュー、共演者たちが語るドニーさん伝説を総合するに、彼が度を越えた熱血スピリットの持ち主なのは想像に難くない。熱く、頑固に、妥協なく、我が道を行く。ドニー・イェンとは、恐らくそういう男である。 そんな本人のお人柄が本作にはジャストフィット。本作はアクションサスペンスだが、ヒューマンドラマ部分も面白い。日本人も大好きな浪花節が全開だ。もっと分かりやすく言うと……ほら、テレビドラマでよくあるじゃないですか。型破りな人物が職場や学校にやってきて、徐々に周囲もノせられてポジティブに変わっていく……みたいな。あれです! 劇中、ドニーさんの熱血漢ぶりは周囲から浮きまくる。検事のもとには山のような仕事が常に舞い込んでくるから、1件の事件に深く関わってはいられない。しかし、無実の若者を助けるべく奮闘するドニーさんを見て、同僚たちも奮起する。ベタではあるし、警察と検事の両方をドニーさんが仕切り出すのは倫理的にヤバい気もするが、やはりこういう作品だけが押してくれるツボがあるもの。さらに現実の世界で実際に、頑固一徹、失敗も孤立も乗り越えて、妥協なきアクションを追求した結果、世界的な大スターになったドニーさんだからこそ、この役と物語に説得力が生まれていた。ちょうど売れない俳優だったシルヴェスター・スタローンが、実際に売れないボクサーに扮して、その美学や思想を体現してみせた『ロッキー』(1976年)のようなものだろうか。コメディやクールなキャラも上手く演じるドニーさんだが、やはりこういう熱血な役が一番ハマる気がする。なお本作は周りも豪華で、脇を固めるのはジュリアン・チョン、フランシス・ン、ケント・チェン、そしてマイケル・ホイといった往年の香港映画ファン的には思わずガッツポーズなメンバーだ。個人的にはフランシス・ンの絶妙に「この人は善・悪のどっちだ?」感が見事だった。あの読めない感じ、さすがである。 そんなわけで人間ドラマ的にも十分に魅力的なのだが、これはドニーさん映画だ。観客の期待に応えるかのように、悪人たちは暴力で白を黒に変えようと襲ってくる。普通のヒューマンドラマなら黒社会の暴力は危機そのものだが、主人公が幸運にもドニーさんなので、すべての暴力シーンはテンションUPポイントに。今回のアクションはMMA(総合格闘技)色が強めで、ドニーさんタックル&テイクダウンに、ドニーさん関節極めと、あの流れるような動きが存分に楽しめる。また、今回は年齢的に現役で戦うのが難しいという設定だからか、肘を使った痛そうな打撃が多く取り入れられており、こちらも迫力満点。「年齢関係なしに、こんなもん食らったら痛いわ」という説得力があった。若手の見せ場もきちんと作りつつ、アクションスターとしてもまだまだ現役だと言わんばかりだ。少なくとも62歳の動きではない。噂が出ている『イップマン』シリーズと『導火線』の続編が楽しみである。 アクションはもちろん、ドラマ的にも痛快そのもの。何より「役者」ドニー・イェンの魅力がすごくいい形で出ている。ドニーさんは個性が強すぎるので、何かとドニーさん映画は歪な形に仕上がりがちなのだが、本作は数あるドニーさん映画の中でも、一番人にオススメしやすい映画かもしれない。ともかくアクション映画ファン的には必見の1本だと言えよう。いや本当に、こういうアクション映画を待っていたんですよ。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする