今年で発生から30年が経過した地下鉄サリン事件など、未曽有のテロを引き起こしたオウム真理教。麻原彰晃元死刑囚=本名・松本智津夫、執行時(63)=という教祖を失った後、麻原元死刑囚の家族を中心に「跡目争い」が繰り返され、3つの後継団体に分裂した。このうち最大勢力「アレフ」の運営は、元死刑囚の次男が主導しているとされる。公安当局関係者は「次男を担ぐ一派や対抗する一派が、それぞれ事件を起こす恐れもある」と警戒を緩めていない。 ■当初も「三つどもえ」の図式 公安調査庁によると、オウムの後継団体はアレフのほか「山田らの集団」「ひかりの輪」で、構成員は令和7年1月時点で計約1600人。3団体とも、団体規制法に基づく観察処分の対象となっている。 「〝お家騒動〟は、平成7年に麻原元死刑囚が逮捕された直後から始まっていた」。ある捜査関係者はこう語る。 オウム内の「ポスト麻原」をめぐる争いは当初、教団の実質ナンバー2だった古参信者の女性▽現在は「ひかりの輪」の代表を務める教団のスポークスマン的存在だった上祐史浩氏▽教団の代表代行に就任していた元死刑囚の妻-の三つどもえで行われていた。だが、女性信者と妻が間もなく、教団が起こした一連の事件に絡んで逮捕されたため、上祐氏が推す女性信者が、後任の代表代行に就いた。 麻原死刑囚には妻との間に2男4女がいる。同関係者は「この女性信者は、6人の中で『最も霊性が強い』とされ、元死刑囚の後継者になると目されていた3女の乳母のような存在だった」と解説。「まだ10代前半だった3女を担ぎ出すため、上祐氏の周辺が女性信者を代行に推したのでは、との観測もあった」と語る。 だが、教団は8年6月、拘置施設内から教祖と代表を退く意向を示した元死刑囚の後任に、長男と次男が就任すると発表。「お家騒動はここから泥沼化していった」(同関係者)。 ■長女の離脱 福島県に生活拠点を置いていた3女に対し、他の5人は8年11月、茨城県内に住民登録し、共同生活を開始。教団はこのころ、3女を主宰者とする合議制の意思決定機関「長老部」を頂点とする指導体制に移行したが、茨城では、子供らと共同生活していた一部信者が長男と次男を「猊下(げいか)」の尊称で呼び、崇拝していた。 こうした中で12年1月、当時7歳の長男が一時連れ去られ、茨城県警が住居侵入容疑で当時16歳の3女らを逮捕するという事件が起きる。背景には、長男と次男を「あくまで正当な教祖」と主張する長女側と3女側の対立があったとされるが、3女側の共犯として当時19歳の次女も逮捕されるなど、複雑な構図が表面化した。