バスは、地域の人々の移動手段として重要な役割を果たす存在です。しかし、一般社団法人交通環境整備ネットワーク相談役の佐藤信之さんは、「近年、多くのバス会社で運行本数削減や路線の廃止が相次いでいる」と語ります。そこで今回は、佐藤さんの著書『日本のバス問題-高度成長期の隆盛から経営破綻、再生の時代へ』から抜粋してご紹介します。 * * * * * * * ◆ツアーバス制度と高速バス類似サービス 高速バスの分野で、本来の乗合許可を受けて運行するのではない、いわゆるツアーバスが勢力を拡大していった。 ツアーバスは、旅行会社が企画して参加者を募集し、貸切バスを借り切って運行するもので、通常の企画旅行と変わらず、規制するのが難しかった。 2000年(平成12年)に「道路運送法及びタクシー業務適正化臨時措置法の一部を改正する法律」が公布され、2002年2月に施行されたが、これは道路運送法の免許基準としていた需給調整条項を削除するものであった。それまでの需給調整条項は、事実上の参入障壁となっていた。 さらに2005年7月に国土交通省自動車交通局は、ツアーバスは、乗合高速バスと類似の2地点間の移動が目的であっても、正規の貸切契約を交わして運行するものであるから、道路運送法違反ではないとの判断を示した。ただ、旅客数に応じて運賃を収受する場合には、旅客運送の無許可営業が考えられると付け加えた。 つまり貸切バスは、本来一車貸が原則であり、個々に運賃を徴収するものは乗合類似サービスとして問題となるというのである。ただしツアーバスの場合は、旅行会社は乗客1人1人から運賃を収受するものの、貸切バス会社には旅行会社から一車分の代金が支払われるわけであるから、問題はないということになる。 また2006年6月の通達「ツアーバスに関する取扱いについて」では、貸切バスは営業エリアが規定されていることから、発地か着地のいずれかが営業区域内であれば、途中で旅客の取り扱いをすることも道路運送法的に問題ないとの考えを示し、ツアーバスに対する理解を示す形となった。 しかし現実には抵抗も強かった。とくにツアーバス開始初期には、旅行業者として道路運送法の規制を回避して都市間でバスを運行したことから、既存のバス事業者から路線バス類似行為としてしばしば批判された。 ツアーバスの原型である帰省バスやスキーバスは、バス会社自体が旅行業を持つかグループの旅行会社を使って会員を募集していたもので、ツアーバスと同じ手法で運行していたが、あくまでもバス事業が本業の会社による運行であった。 これに対して、新しく登場したツアーバスでは、バス会社にとってはそれまでパートナーであった旅行会社が競争相手として登場してきたため、バス会社は困惑した。しかもツアーバスは激安でサービスを提供したため、バス会社としては競争にならなかった。 路線バスの利用者が減少し、厳しいなかで、それまで収益源であった都市間高速バスがツアーバスの登場で減収となったので、バス会社の痛手は大きく、抵抗も熾烈であった。