再評価されるルース・アサワの回顧展が開催中。遊び心あふれる作品の奥に秘められた強制収容体験

1973年にサンフランシスコ近代美術館(SFMOMA)で開かれた初回顧展のオープニングプログラムで、ルース・アサワはパン作りとアートと遊びを融合させた「ドウ・イン(dough-in)」という参加型イベントを催した。それは、食用には適さない「パン屋の粘土」と呼ばれる工作用の白いパン生地(ドウ)を用いて、参加者が思い思いの形を作るというものだった。生地のレシピは小麦粉4カップ、塩1カップ、1.5カップの水で、それを混ぜ合わせて子どもたちにこねてもらい、完成した作品を階下のカフェにあるオーブンで焼き固める。 親子連れなど約1000人が参加した「ドウ・イン」は、とびきり楽しいイベントだったに違いない。1973年当時、来館者の中には、小さな子どもたちと一緒に料理をすることが本当にアートと言えるのかといぶかる者もいたが、その頃すでにパン屋の粘土を使って作品を制作していたアサワは、そうした懐疑的な反応を意に介していなかったようだ(イベントには6人の我が子も連れてきていた)。実際、1971年のグッゲンハイム・フェローシップに応募したとき、彼女は申請書にこう書いている。 「アーティストの制作物なら、その辺の紙切れに思いつきで描かれたドローイングでさえ大切に保管すべきという考えは当然のこととして受け入れられています。ドウで作った作品もそうあるべきです」 ちなみに、さまざまな助成金プログラムに応募していたアサワは、この時を含め4度落選の憂き目に遭った。それでも、自らの主張通り、1973年の回顧展でもドウで作った作品を展示している。正方形に整えたパン生地を焼き固め、自身の代表作であるワイヤー彫刻やドローイングと一緒に並べたのだ。

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