トランスジェンダー男性であるというアイデンティティを反映した独創的な作品作りで国内外から注目される若手監督、飯塚花笑の最新作『ブルーボーイ事件』が、11月14日より全国公開される(配給:日活/KDDI)。1960年代の裁判から着想を得て、“性別適合手術”を巡る裁判を通じて、時代に翻ろうされた人々の尊厳と葛藤を描く社会派ドラマだ。 1965年、オリンピック景気に沸く東京で、街の浄化を目指す警察は、街に立つセックスワーカーたちを厳しく取り締まっていた。ただし、ブルーボーイと呼ばれる性別適合手術(※当時の呼称は性転換手術)を受け、身体の特徴を女性的に変えた者たちの存在が警察の頭を悩ませていた。 戸籍は男性のまま、女性として売春をする彼女たちは、現行の売春防止法では摘発対象にはならない。そこで彼らが目をつけたのが性別適合手術だった。警察は、生殖を不能にする手術は「優生保護法」(※現在は母体保護法に改正)に違反するとして、ブルーボーイたちに手術を行っていた医師の赤城(山中崇)を逮捕し、裁判にかける。 同じ頃、東京の喫茶店で働くサチ(中川未悠)は、恋人の若村(前原滉)からプロポーズを受け、幸せをかみ締めていた。そんなある日、弁護士の狩野(錦戸亮)がサチのもとを訪れる。実はサチは、赤城のもとで性別適合手術を行った患者のひとり。赤城の弁護を引き受けた狩野は、証人としてサチに出廷してほしいと依頼する。 当時の日本で性別を変えることは、明確に認められておらず、今以上に性的マイノリティの人々に対する激しい差別が横行していた。サチも「私は今、女として静かに生きています」と葛藤しながらも、出廷を断る。 サチのかつての同僚・アー子(イズミ・セクシー)は「何も隠さずに素直に生きられたら素敵だと思わない?」と自由に生きれる世の中を夢見ていた。そんなアー子にブルーボーイの元締めであるメイ(中村中)は「あんたの話は全部夢物語なのよ」と現実に目を向けるように厳しく言い放つ。 同じ境遇であっても考え方はさまざまでブルーボーイの中でも困惑が広がっていく中、サチはアー子に背中を押されるように証言をすることに。しかし、証言台に立つことで弁護士から激しく尋問され、記者に追いかけられ憶測の記事が飛び交う事態に発展。サチは若村との幸せな日常を投げ出してもこの裁判に向き合う事を決意するが、彼女は何故証言し続けたのか。そして、裁判官の「あなたは今、幸せですか」という問いかけにサチはなんと答えるのか――。 本作のキャスティングにあたっては「この物語を描くには当事者によるキャスティングが絶対に必要」という監督の強い意志のもと、さまざまな経歴を持つトランスジェンダー女性たちを集めたオーディションが行われた。多くの候補者の中から主人公役に選ばれた中川は、ドキュメンタリー映画『女になる』(2017年、田中幸夫監督)への出演経験はあるものの演技経験はなく、本作で初演技にして主演を務める大抜てきとなった。 多様性を認めようという動きに対して、逆行するような反発が国内外で強まっている今だからこそ、差別や偏見とは何かを改めて考させる。 なお、本作は10月27日に開幕する「第38回東京国際映画祭」(ガラ・セレクション)でも上映される。