検事とはどんな仕事なのか。23年間検事を務め、現在は弁護士の村上康聡さんは「検事は、警察から一番に信頼を得なくてはならない。ゆえに事件現場では、捜査官の言動にかなり気を遣う」という――。(第1回) ※本稿は、村上康聡『検事の本音』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。 ■警察と検察の意外な関係性 東京の場合、検察庁には、毎日午前9時過ぎに警察の護送バスに乗せられて被疑者が来る。 護送バスは各警察署を回り、その日に取り調べられる被疑者を集めて押送する。そして、遅くとも午後5時30分には護送バスは被疑者を集めて帰路につく。したがって、検事は、この時間内に被疑者の取調べを終えなければならない。 しかし、取調べが佳境に入ったりした場合には、午後5時30分を回ることもある。そんな場合には、警察署の担当捜査員に連絡して、普通のセダンで連れ帰ってもらうことになる。とはいえ、捜査員は、取調べが終わる頃に来てはいけない。 午後5時30分に間に合うように検察庁に来てもらわなければならない。というのも、取調室で逃走防止のために、被疑者の後方で監視する留置担当の制服警察官の代わりに座って監視してもらう必要があるからだ。 この場合、やっかいなのは、捜査員に検事の取調べ内容、供述内容を知られることだ。留置担当の制服警察官は、事件のことを知らないので、取調べで気を遣うことはない。しかし、警察の捜査員が同じ部屋にいるということは、被疑者にとっても検事にとってもプレッシャーになる。 ■被疑者に取調べ内容を聞き出す捜査員 捜査員は、被疑者が警察で話していないことを検事の前で話すのを嫌がる。なぜなら、自分たちの取調べが不十分だということを示すことになるからだ。「今日、検事に何を話したんだ。俺たちに言っていないことを話したなんてことはないだろうな」なんてことを捜査員は、被疑者を連れて帰るときなどに確かめることもあるらしい。 実際に、被疑者は検事の取調べで、捜査員も知らない新しい重要な事実を話すことがある。ときには、捜査員には否認していたのに、検事の前で真実を自白することもある。このとき、検事には二通りのタイプがある。 その内容についてすぐにその場で検事調書に記載するタイプと、自分では調書作成は行わずに、警察に戻ってからその日のうちに調書を取ってもらうように警察に指示を出すタイプだ。往々にして検事は、「自分の前で自白した」「新たなことを話した」ということで自慢げに調書を取りたがる。検事調書の方が証拠としての価値が高いからだ。 しかし、私は、あえて後者の方を選んでいた。「世話になっている人がいるだろう。その人の前で話して調書を取ってもらったらいいと思うよ」と被疑者に言い、警察にも電話してそのことを話し、警察に花を持たせていた。