アングル:歴史的美術品の盗難防げ、「宝石の指紋」を取る伊美術館の手法に注目

Ciro De Luca Giselda Vagnoni [ナポリ 28日 ロイター] – パリのルーブル美術館の宝飾品強盗事件を受け、世界の美術界で警戒感が高まっている。そんな中、あるイタリアのコレクションによる宝石や美術品の「法科学的指紋」を作成する独自の方法が、盗難品を分解して売却することを困難にするとして注目を集めている。 ナポリの「サン・ジェンナーロの宝物」コレクションでは、宝石学の専門チームによる最も高価な品々の研究に10年以上費やした。顕微鏡や特殊機器を活用して1万点以上の宝石を撮影した。 展示場を物理的に保護する武装警備や警報付き展示ケースとともに、この手法によって宝石が持つ固有の特徴を証明することが可能になり、DNAのような「法科学的指紋」を提供できるようになった。 欧州の主要美術館はルーブル美術館の盗難事件の後、自らのセキュリティ体制についてコメントを控えているが、ナポリの手法から博物館の採用する対策の一端が垣間見える。 <ルーブル館長は警備態勢を警告> 「もしもルーブル美術館がこのセキュリティシステムを採用していたならば、窃盗犯は盗まれた宝飾品から得た宝石を転売できなかっただろう」。ローマにあるラサピエンツァ大学の元鑑定宝石学教授で、マッピング作業を主導したチーロ・パオリッロ氏は語った。 「宝石はたとえカットされていても、国際機関が最初に公式の品質認証をした段階で識別されるだろう」 ロイターはルーブル美術館が宝石について同様の分析をしていたかどうか確認できなかった。同美術館はコメントの要請に応じなかった。 ルーブル美術館のロランス・デ・カール館長は建築後数世紀経過した建物のセキュリティが深刻な状態だと繰り返し警告していたと述べた。外部の監視カメラは正面全体をカバーしておらず、窃盗犯が侵入した窓は監視されていなかったという。 パリ検察は26日、強盗の疑いで複数の容疑者を逮捕したと発表したが、容疑者逮捕を巡る新聞報道が盗難宝飾品と犯人を捜索する妨げになるとして、詳細を明らかにしていない。 <1975年にマフィアの襲撃未遂> 「サン・ジェンナーロの宝物」は、教皇や王族、富裕層からの寄贈によって7世紀以上にわたり収集された聖なる美術品と宝石の宝庫だ。1800年代にナポリの国王だったナポレオンの兄ジョゼフ・ボナパルトが寄贈したエメラルドとダイヤモンドがあしらわれた十字架などが含まれている。 ナポリ大聖堂の隣に位置するこの博物館は約2万1000点の品々を収蔵しており、約4000個の宝石がちりばめられた司教冠や、1500個以上の宝石が付いたネックレスなどがある。 「サン・ジェンナーロの宝物」は南イタリアの港町ナポリの守護聖人である4世紀の殉教者サン・ジェンナーロにちなんで名付けられている。 公式には鑑定されていないが、フランチェスカ・ウンマリーノ館長によると、司教冠とネックレスは合わせて推定で約1億ユーロ(約1億1600万ドル)の価値があるという。 また、17世紀から18世紀に作られた53体の銀製胸像も含まれており、それぞれ約200キロの重さがあるという。 パオリッロ氏が率いるイタリアのチームは銀や金のサンプルを分析し、ナポリの歴史的な金細工職人街の特定の工房にまで起源をたどった。 しかしながら、合金は法律で現在標準化されているため、こうした金属分析によるマッピングはもはや不可能であり盗難された時は役に立たないだろう。 「犯罪者が作品を溶かしてしまうと合金の特定が不可能になる」とパオリッロ氏は語った。 イタリアの大半の宗教美術品と異なって「サン・ジェンナーロの宝物」はバチカンや国家が所有していない。このコレクションはナポリ市民が所有し、1527年に設立された世俗機関「デプタツィオーネ」が管理している。 「サン・ジェンナーロの宝物」は地元マフィア「カモッラ」の強盗未遂事件が1975年に起きた後、約30年間ナポリ銀行の金庫に保管されていた。 2003年に一般公開が再開されて以降、ナポリの犯罪指数が高止まりしているにもかかわらず、強盗事件は報告されていない。 「当館の窓は全て盗難防止対応で警報器が付いている。入り口は軍が24時間体制で警備している。万が一、何かが盗まれたとしても宝石のマッピングによって識別が可能だ」と、デプタツィオーネのリッカルド・カラファ・ダンドリア副会長は語った。 「ナポリ市民は守護聖人に対する深い信仰心から宝物に手を触れないし、またほかの誰にも決して触れさせないだろう」

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