遺族と警察の思いが、容疑者逮捕への糸口をたぐり寄せたといえよう。 1999年に名古屋市のアパートで住人の主婦高羽奈美子さん=当時(32)=が殺害された事件で、愛知県警が同市の女を殺人容疑で逮捕した。 発生から約26年、事件解明へと動き出した。他の未解決事件の捜査にも望みをもたらすのではないか。 県警は昨年、これまでの捜査を見直す中で、5千人以上の関係者から、DNA型鑑定をしていない数百人を抽出した。 逮捕された容疑者も含まれており、鑑定試料の任意提出を求めた。拒否していた容疑者が先月末に応じ、数時間後に出頭したという。現場の血痕とDNA型が一致し、逮捕した。容疑を認めているという。 奈美子さんの夫、悟さんは現場保存のため当時の部屋を26年も借り続けた。玄関に犯人のものとみられる血痕が残っていたことから、「科学捜査の進展で解決のきっかけになるかもしれない」と考えたという。 この間にDNA型鑑定は、高精度の個人識別が可能となった。 さらに刑法と刑事訴訟法が2010年に改正され、従来25年だった殺人罪の公訴時効が撤廃されたたのが大きい。広島県などで長期未解決事件の摘発が相次いだ。 ただ、警察によるDNAデータの取り扱いには問題もある。「究極の個人情報」であるにもかかわらず、国家公安委員会の規則など警察の内規で運用されている。 冤罪(えんざい)事件を巡って昨年に名古屋高裁は「(DNAデータが)みだりに保有され、利用されない憲法上の自由の保障」を認め、「制度的に担保するための立法化が必要」の判断を示し、確定している。 今年9月には、佐賀県警の科学捜査研究所の技術職員が、行っていないDNA型鑑定を実施したように装う不正行為が発覚した。 滋賀県警では7警察署で、3800点を超す大量の証拠品が、署の倉庫などに放置されていたことも明らかになった。 これらは、警察の信頼を揺るがすだけでなく、国民の捜査協力に不安を招き、法による正義の実現を阻害しかねない。 07年の京都精華大生殺害事件など長期未解決事件は京都府、滋賀県内にも少なくない。愛知県警の捜査手法は共有してほしい。 捜査当局には、人権に配慮した取り調べと科学的な分析に基づき、事件を解決してもらいたい。