容疑者の女“黙秘”は弁護士の指示?報道を気にして?被害者夫「私への恨みか…妻に報告できていない」 名古屋主婦殺害事件

名古屋主婦殺害事件をめぐり、その“動機”が注目されている。被害者の夫・高羽悟さん(69)は取材で、「動機は全然分かっていない。私に対しての恨みなのだろうが、ちゃんと供述してくれるかどうか分からないので、半分諦めかけている」と話していたが、その言葉通りの展開になった。 安福久美子容疑者(69)は、逮捕直後は供述していたが、その後に黙秘へと転じたと伝えられる。なぜ、妻・奈美子さんは殺されなければならなかったのか。肝心な動機は被害者家族の耳には伝わっていない。黙秘は憲法で保障された権利だ。取り調べでも裁判でも、自身の不利な供述をする必要はなく、それが被疑者の不利益につながることも禁じられている。 黙秘について、検察官側、弁護士側、裁判官側、それぞれの立場から話を聞いた。元東京地検特捜部副部長の若狭勝弁護士は、元検察官として「経験上、(最初は)自白をしていて、途中で供述を黙秘することはままある」と語る。 弁護士側については、東横こすぎ法律事務所の北川貴啓弁護士が説明する。「そもそも裁判の仕組みとして、『容疑者が犯行を犯した。そして有罪である』と立証するのは検察の役目だ。(黙秘することで)不用意な供述を避けようとしているのは一つある」。 では、裁判官側はどうか。元大阪地裁・札幌地裁の裁判官の内田健太弁護士は「被疑者が黙る権利を保障することに大きな意味がある。刑事訴訟法の大原則に『起訴状1本主義』がある。裁判官が予断や偏見を招くような資料をつけてはいけないのが大原則だ」と話した。 事件は26年前の1999年11月13日に起きた。高羽さん家族が暮らすアパートの部屋で、妻の奈美子さんが何者かに殺害された。首を複数回刺されており失血死だった。 元徳島県警捜査1課警部の秋山博康氏は「侵入してすぐ、土足のまま一気に来ている。入ってきた時にはすでに刃物を構えていて、出てきた時にいきなり入って、攻撃にかかった」と推測する。 悟さんは「首の動脈か静脈を刺されたのが、ここ(廊下と部屋との間にあるドア付近)ではないかと。左のおでこにコブができていた」と明かす。 犯人は奈美子さんを刺したあと、自らも手を負傷したとみられ、洗面所で血を洗い、そのまま逃走した。自宅から約500メートル先の公園の水道で再び血を洗ったのか、この場所で血痕が確認されたが、その後の足取りは分かっていない。犯行に使用した凶器は見つかっておらず、犯人が持ち込んだと考えられている。 そんな中での黙秘は、どう作用するのか。北川弁護士は「もちろん影響する。凶器があった方が直接的な証拠になるので、もし発見されれば、検察は非常に有利な証拠として提出する。逆に出せない、見つからないとなると、容疑者が被害者を死に至らしめるような動機・きっかけを持っていた可能性は十分あった。そういった細かい事情をいくつも立証証明していく必要がある。容疑者本人の供述に頼るところもあるため、弁護人としては『警察・検察に話さなくても別にいい』とアドバイスしている可能性はある」とみる。 殺人事件では、“動機”が重視される。安福容疑者は、高校の同じ運動部だった悟さんに好意を寄せていたとされるが、それが殺害の動機なのかは不明のままだ。 元裁判官の内田氏は、「殺人罪において『動機が何か』というのは、量刑を決める重要な要素だ。裁判所はできるだけ動機が何なのか解明したい。黙っているから、やましい動機があったのだろうと推認することは許されない。裁判所は実際に明らかになった客観的な経過を踏まえて、動機が合理的と推認できるか、『常識的に考えて動機はこうだ』と認定できるかを裁判員と話し合う」と解説する。 元検察官の若狭氏も、動機の解明は必要だとする。「人間が殺意を抱くのは大体、了解可能な経過をたどることがあり、『どういう経緯で、どうして彼女を殺す気持ちになったのか』その動機が、検察において一番解明しなければいけない点だ。どうして、その後の経緯が全くない中で殺害しようと思ったのか。動機の解明が大きなポイントになり、検察がどこまで真相を解明できるかが、今回の事件のポイントになる」。 動機を黙秘する理由について、北川弁護士は「DNA鑑定で(安福容疑者が)犯行現場にいたことは間違いない。現場に首を数カ所刺されて死亡した被害者がいたということ(も間違いない)。あとは『犯行に及んだのが本当に容疑者なのか』を結びつけないといけない。そこには動機の有無や内容、容疑者の当日の足取りについて、検察・警察は詳細な供述を得たい。そこに対して、不用意な供述を避けようとしているのは、一つあるのでは」と推測する。 名古屋地検は11月14日、安福容疑者の鑑定留置を始めた。「弁護人は『精神的に異常状態だった』と主張する可能性がある。例えば、『幻聴・幻覚によってお告げがあった。だから殺害した』という話になりかねない。場合によっては精神鑑定という話にもなりかねない。そのため逆に検察は、弁護人からのそうした主張をつぶすために、是が非でも残された時間で供述してもらうような環境を整え、『なぜ時がたってそうなったのか』『犯行に至ったのか』を、彼女自らの口で、言葉で述べてもらうことがポイントだ」(元検察官の若狭氏)。 北川弁護士は「『少なくとも現在は、問題なく刑事責任能力を問うことができる』と警察・検察側が判断する。現在も大丈夫ということは、26年前も状況は変わっていないだろうから大丈夫というロジックだろう。それに対して弁護人は『現時点の精神鑑定、本鑑定をしたとしても、26年前とはまた別だ。期間が空いているため、そこで精神鑑定をしてもあまり意味がない』という反論は十分考えられる」とした。 黙秘に転じた理由として、元検察官の若狭氏は「報道の大きさ」にある可能性を指摘する。「被疑者・容疑者が気にする一つに、『どのように報道されていますか』がある。今回の場合は、彼女が想像を絶するほど大きく(メディアに)取り上げられた。それにより、彼女の中で心が整理できず、黙秘に傾くというのは、人間心理・容疑者心理としてあり得る。こういうパターンの場合は、私の肌感覚で行くと、7割程度はまた自白に戻る」。 動機について、悟さんは「奈美子に報告できていない。奈美子に報告するためにも、最初から公判の傍聴はしたい」と語った。 (『ABEMA的ニュースショー』より)

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