「暴力を振るっていない。火もつけていない。共謀もしていない」 男はこう供述し、4つの罪のうち3つを否定した。 11月14日にさいたま地裁で行われたのは、殺人、現住建造物等放火、詐欺、詐欺未遂の罪に問われている住所不定、無職の菊地渉被告(40)の初公判だ。’22年5月、菊地被告は元内装工の大西寿貴受刑者(34、殺人罪などで懲役23年の実刑が確定)と共謀し内装工事会社社長A氏(当時43)を殺害したとされる。 「弁護側は大西受刑者が仕事上のトラブルを抱えていたと訴えています。大西受刑者が突然Aさんを殴り始め(会社の事務所に)火をつけたと。菊地被告は現場にいたが、犯行に関与せず事務所から離れたとの主張です。 一方、検察側は大西受刑者に『報酬を渡す』と話し協力を持ちかけたのは菊地被告だとしています。事件直前にAさんの殺害を示唆するメッセージを大西受刑者に送り、警察が捜査に乗り出す前に履歴を消していたと説明しているんです」(全国紙司法担当記者) 『FRIDAYデジタル』は菊地被告と大西受刑者の逮捕直後に、当該トラブルを詳しく取材している。事件の一部始終や、驚くべき犯行動機を紹介したい――。 ◆「資材を取りに戻った」 屋根は焼け落ち、壁は真っ黒に煤けている。せわしなく行き交う消防隊員。事件直後の放火現場は、生々しい姿をみせていた。 ’22年11月20日、埼玉県警朝霞署は菊地被告と大西受刑者の2人を殺人や現住建造物等放火の疑いで逮捕した。同市内の内装会社の事務所兼作業場に火をつけ、社長A氏を殺害したとされる。A氏は元請けで、菊地被告らは仕事を委託される立場だった。 「Aさんと菊地被告らは、’22年1月に知り合い仕事をしていたようです。事件が起きる前日の5月13日、3人は他の作業員とともに東京都内へ内装の仕事に出かけます。作業は翌14日の未明までかかり、事務所で解散したのは朝5時前でした。 菊地被告と大西受刑者は、再び会社に戻り犯行に及んだとされます。事件直後の警察の事情聴取で、2人は犯行の時間帯に会社にいたことは認めましたが『資材を取りに戻った』と主張していました」(全国紙社会部記者) 午前10時ごろ、通行人が同社のプレハブ建物が激しく燃えているのを発見し119番通報する。事務所スペース約37㎡が全焼。焼け跡からA氏の焼死体が見つかった。現場は火の気のない場所なうえ血痕が残っていたため、警察は放火事件とみて捜査を開始。防犯カメラの映像に、同社からワゴン車に乗り走り去る菊地被告と大西受刑者の姿が映っていたため逮捕にいたった。 ◆「遺体に複数の骨折」 「菊地被告ら2人は、Aさんの頭をバールなどの鈍器で何度も殴った疑いがあります。Aさんの遺体には、複数の骨折が認められました。血中からは一酸化炭素を検出。事務所のドアは施錠されていたため、Aさんは暴行を受けた後、生きている状態で閉じ込められ焼き殺された可能性があるんです」(同前) 逮捕された2人は、当時「日当の未払いがあった」と供述していたという。関係者によると、菊地被告がAさんから多額の借金をしていたという話もある。冒頭で紹介した初公判では、検察側が驚くべき犯行動機を指摘した。 「菊池被告はAさんの内装会社の下請けでした。大西受刑者は、菊地被告のさらに下請けだったようです。検察側によると、菊地被告は競艇などにハマり下請け業者への支払いに窮していたとか。菊地被告は、Aさんを殺害後に会社からカネを取ることをもちかけ大西受刑者と共謀したとされます」(前出・司法担当記者) 元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏が解説する。 「被害者を何度も殴打し生きたまま焼き殺したとしたら、残忍極まりない犯行です。実際に手を出したのは共犯者で、自分は現場にいたが何もしていないという被告の主張は信ぴょう性に欠けます。検察側も相当な証拠があると考えられます」 判決は12月5日に言い渡される予定だ。