学術奨励の資金が汚職の温床に…寄付金を懐に入れた東大病院准教授、使途チェックに課題も

東大という最高学府の付属病院を舞台に、明るみに出た贈収賄事件。逮捕された准教授の松原全宏容疑者(53)は、医療機器メーカーから病院側への寄付金を自らの懐に収め、私的な目的に費やしていたとされる。国立大学の法人化などにより、各大学が独自に資金調達を行う必要性が高まる中、産学連携による学術・研究振興を目的とした制度が汚職の温床となった。 救急・集中治療科に所属し、整形外科・脊椎外科で外傷診のチーフを務めるなど、研究や臨床で責任ある立場にあった松原容疑者。医療機器導入の見返りとして、現金を受け取る際に利用したのが「奨学寄付金」だった。 奨学寄付金は本来、教育研究の奨励などのため、企業や個人から受け入れる寄付金だ。東大病院では、病院側の取り分などを除く約85%が、寄付の宛先に指定された医師個人に配分され、研究に自由に活用できる形になっていたとみられる。 松原容疑者は、贈賄側の医療機器メーカー「日本エム・ディ・エム(MDM)」側に、寄付金の申請書に記載する内容を指示していたとされるが、「名目は架空で、入ってきたカネも研究とは何ら関係ない形で使用された」(捜査幹部)。警視庁は平成28年12月~令和5年1月、松原容疑者が日本MDMを含む5社から計300万円を寄付金として受け取り、うち150万円を私的な物品の購入に充てるなど、流用が常態化していたとみて全容解明を急ぐ。 奨学寄付金を巡っては、業界団体の「日本医療機器産業連合会」が会員企業に対し、透明性の確保や資金提供状況の公開を求めている。医療政策に詳しい中央大大学院の真野俊樹教授(医療経済学)は「奨学寄付金の使途は研究目的に限定されており、個人が完全に自由に活用できるものではない。内部のチェック体制などガバナンスが甘かった可能性はある」と指摘する。 東大病院は事件を受け、「今回の事態を重く受け止め、捜査機関による捜査に全面的に協力するとともに、大学本部と連携して対応していく」とのコメントを発表。日本MDMも「厳正に対処していく」としている。(海野慎介)

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