斎藤元彦・兵庫県知事再選1年 県民の分断生む賛否の深い溝

斎藤元彦知事が県議会の不信任決議を受けて失職し、出直し知事選で再選されて1年がたった。だが斎藤氏への賛否の溝は深まっているように見える。その背景にある思いに迫った。 悪夢だった。まさか上司のパワーハラスメントを告発して仕事を失うとは……。 神戸市の40代男性は、自身の経験と斎藤氏のパワハラなどの疑惑を文書で告発して懲戒処分された元県幹部を重ね合わせ、県庁前などで抗議を続ける。 6年前、会社でずっと暴言や暴力を受けていた上司に初めて強く言い返した。会社には証拠として、上司から暴行を受けている画像を見せ、長年我慢してきたことを訴えた。 だが数日後、社長に「画像は時効。あなたも強く言い返している」と言われ、上司と顔を合わせないためという理由で仕事を減らされた。同僚らとも連絡がつかなくなった。収入が半減し、悔しさをかみしめたまま辞めざるを得なかった。 告発した元県幹部の死亡に衝撃を受け、文書告発問題を調査した県議会の調査特別委員会(百条委)の動画を繰り返し見た。「真偽を調べる前に告発者を捜して懲戒処分までしているのに、斎藤氏はまともに説明していない」と憤りがこみ上げた。 昨秋の知事選では、斎藤氏を応援する「2馬力選挙」を展開した政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志容疑者=名誉毀損(きそん)容疑で逮捕=に街頭演説の場で抗議した。群衆に何度も服を引っ張られ、体当たりもされ恐怖した。だが、もう引く気はない。「元県幹部は告発したことで社会的に抹殺された。僕の何倍もつらかったはず」 斎藤氏と自身を重ねて支持する県民もいる。 同市の女性(60)は市内の大学の保護者会長を1年間務めたことがある。新しい提案をしようと努力したが、同じ保護者に「私欲で予算を使っている」とする文書を計4回まかれ、会議でも保護者に怒鳴りつけられた。「いくら説明しても理解してもらえないのが一番つらかった」と振り返る。 疑惑を一貫して否定する斎藤氏の姿は保護者会で自分が置かれた立場と重なり、指摘された疑惑は無実と感じたという。再選後もやまぬ追及に、「やはり斎藤さんが知事になると困る人が後ろにいるんだ」と疑い始めた。 県議会の傍聴に通っており、県庁前で大声で抗議する反対派にうんざりする。だが、反撃しようとは思わない。「反対している人が絶対的におかしいとは思っていない。でも県政が進んでいるならもういいのでは」と話した。 取材では「反対派は金をもらって活動している」と確信した様子で話す女性や「支持者はデマを信じ込んでいる」と批判する男性もいた。分断は深まっているようにみえる。 インターネット上での意見形成を研究する横浜商科大の田中辰雄教授(計量経済学)は知事選中から今年6月まで計3回にわたり、ネットを通じて千数百人の有権者の意識調査を続けてきた。 その結果、斎藤氏を支持する人はユーチューブの情報を重視する傾向が明確に出た。過激な主張も多いネットメディアで自身と同じ意見ばかりを見続けることで、自身が正しいと感じる「エコーチェンバー」に陥り、一部が先鋭化した可能性があるという。田中教授は「互いに極端な意見の人はごく一部。大半は理解しあえる人たちで、そこに分断解消の糸口がある」と指摘する。 ◇ 斎藤氏の再選から1年。県政の「現在地」を報告する。

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