戒厳令から1年の韓国 妻に懲役15年求刑された尹錫悦は今も獄中で戒厳令を正当化する

2024年12月3日午後10時27分、テレビ画面に現れた尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領(当時)は非常戒厳を宣布した。誰もが「フェイクニュース」と思った瞬間だった。しかしその衝撃的な夜から丸1年が経過した今、韓国の政治状況はどうなっているのか。 12月3日、李在明(イ・ジェミョン)大統領は「光の革命1周年国民特別声明」を発表し、同日には特別検察が尹前大統領の妻・金建希(キム・ゴニ)に懲役15年を求刑、そして獄中の尹前大統領は読売新聞の書面インタビューで戒厳令の正当性を改めて主張した。あの夜から1年、韓国政治は何を経験し、どこへ向かおうとしているのか。ノーカットニュース、国民日報など韓国メディアが報じた。 <「国民主権の日」── 李在明が描く新たな記念日> 12月3日、李在明大統領は龍山の大統領室で特別声明を発表した。「今日は『光の革命』が始まってから1年になる日」と語り始めた李大統領は、市民たちの抵抗を高く評価した。 「21世紀に大韓民国のような民主主義国家でクーデターが発生したのは初めてだが、非武装の国民の手で平和的にそのクーデターを阻止したことも世界史上初めてだ」 声明の中で李大統領は、市民たちの行動を詳細に振り返った。国会に向かう装甲車を素手で阻止し、議会を封鎖した警察に抗議し、2次戒厳を防ぐために国会議事堂の前で夜通し警戒した若者たち、真冬の雪の中で銀色の保温シートにくるまりながら冷たいアスファルトを守った市民たち──。「彼らは大きく不義だったが、我々国民はこれ以上なく正義だった」と李大統領は述べた。 そして李大統領は、この日の記憶を永続させるための具体的な措置を発表した。12月3日を「国民主権の日」として指定し、公休日とするというのだ。さらに李大統領は、「世界史に類を見ない民主主義の危機を平和的な方法で克服した我々大韓民国の国民こそがノーベル平和賞を受賞する十分な資格がある」とまで言及した。この大胆な提案について、李大統領は「世界市民の意思が重要」としながらも、「妥当性や現実的可能性について議論が行われればいい」と語った。 <「正義ある統合は縫合ではない」── 内乱清算への強い意志> しかし李大統領の声明で最も注目されたのは、単なる記念行事の話ではなかった。「光の革命はまだ終わっていない」と述べた李大統領は、内乱関与者への厳正な処罰を強く求めた。 「私的な野心のために憲政秩序を破壊し、戦争まで企てたその無道さは必ず審判されなければならない」 前日の国務会議では、李大統領は「国民から託された国家権力で個人の人権を侵害することについては『ナチス戦犯』を処理するように、生きている限り永遠に刑事処罰し、相続財産がある範囲内では相続人まで責任を取らせる」と発言していた。この発言は、内乱清算に対する李大統領の強硬な姿勢を明確に示すものだった。 李大統領は「正義ある統合」という言葉を繰り返し強調した。そして「正義ある統合とは縫合ではない統合だ」と述べ、「すでに起きたことなのだから全て覆い隠して進もう、というのは統合ではない」と断言した。李大統領は手術に例えて説明した。 「改革の過程では痛いところ、腐敗したところを切り取らなければならず、手術を経ないわけにはいかない」 さらに李大統領は、現在進行中の内乱特別検察の捜査が不十分だと指摘し、追加捜査の必要性を示唆した。 「内乱特検が終わってもこの状態で覆い隠して進むことは難しく、おそらく特別捜査本部か何かを組織して捜査を続けなければならないだろう」 与党・共に民主党が主張している追加特検に事実上の支持を示したのだ。 <獄中の尹錫悦が語った> 一方、同じ3日にはソウル中央地裁で金建希に対する結審公判が開かれた。特検は金建希に懲役15年と罰金20億ウォンを求刑した。 金建希は、2010年から2012年にかけてドイツモータース株価操作に関与し約8億1000万ウォン相当の不当利得を得た疑い、政治ブローカー明泰均(ミョン・テギュン)から2億7000万ウォン相当の世論調査結果58回分を提供された疑い、旧統一教会関係者から高級ハンドバッグやダイヤモンドのネックレスなど合計8000万ウォン(約850万円)相当の金品を受け取った疑いなどで起訴されていた。 特検は「被告人はこれまで大韓民国の法の外に存在し、法の上に立っていた」と厳しく批判した。さらに「宗教団体と結託して憲法上の宗教分離原則を崩壊させ、民主主義の根幹である選挙の公正性、代議制民主主義という国家統治システムを崩壊させた」と述べた。 法廷に現れた金建希は黒い縁のメガネに白いマスクを着用して入廷した。被告人尋問では、すべての質問に対して「申し訳ありません。陳述を拒否します」と答え、わずか5分で終了した。最終陳述では、「私も非常に冤罪な点が多いが、私の役割と資格に比べて間違いが多かったのは確かだ」と曖昧な態度を示し、特検の求刑を聞いた時には苦笑いを浮かべた。 尹錫悦政権で「V0」(V1である大統領よりも強い権限を持つという意味)と呼ばれた金建希。特検の捜査では、贈賄を受け取った後に公職や利権を保証するパターンが繰り返し明らかになった。ヴァン クリーフ&アーペルのネックレス、ヴァシュロン・コンスタンタンの時計、金の亀──様々な高価な品々が各種人事請託の証拠として提示された。 特検関係者は「単純な国政関与を超えて、国政を壟断しシステムを私物化した重犯罪行為だ」と指摘した。判決は来年1月28日に予定されている。 <獄中の尹錫悦――「国民に知らせるため」と主張> 一方、ソウル拘置所に勾留中の尹錫悦前大統領は、読売新聞の書面インタビューに応じ、戒厳令宣布を改めて正当化した。「自由民主主義の憲政秩序の崩壊と国家危機状況で下した国家非常事態の宣言であり、主権者である国民にこうした状況を知らせる」ためだったと述べた。 尹前大統領の公判では、兵力を国会に投入した行為が戒厳令解除決議案の可決を阻止する狙いだったかどうかが争点の一つとなっている。これに対して尹前大統領は「国民を抑圧する過去の戒厳とは異なる。数時間で国会の解除要求を受け入れた」と述べ、国会無力化の意図はなかったと主張した。 大統領在任中に改善に努めた日韓関係については、「韓日関係の発展は両国だけでなく、インド太平洋地域と世界における自由と平和の繁栄にとって非常に重要だ」と強調。日米韓3か国の協力拡大については「大きな意味と価値を感じている」と自負を覗かせた。 しかし尹前大統領の主張は、あの夜の現実とはかけ離れている。戒厳軍が国会に突入し、議員たちが身を挺して議事堂を守り、市民たちが素手で装甲車を阻止した――その緊迫した状況を、「国民に知らせるため」という言葉だけで説明できるだろうか。 <「V0」の影──戒厳令の真の動機は> 実は、尹前大統領がなぜあの夜に戒厳令を発動したのか、その真の動機について新たな証言が出ている。韓国の保守系紙「中央日報」は12月2日、尹前大統領の側近たちへのインタビュー記事を掲載した。記事中のB氏は「当時の権力内部の状況、政局の状況を知る人々は皆、金建希女史のために戒厳したと思っている」と率直に語っている。 12歳年下の妻に頭が上がらないという噂が絶えなかった尹前大統領。その愛してやまない妻に捜査の手が伸びたことが、最終的に戒厳令を後押ししたという見方だ。尹前大統領は繰り返し「反国家勢力」である共に民主党を戒厳の理由として挙げているが、側近たちの証言は異なる現実を示している。 <1年後の韓国──民主主義は守られたが> 戒厳令発動から1年。韓国は現職大統領として初めて逮捕・起訴された尹前大統領と、その妻として初めて勾留起訴された金建希という憲政史上前例のない事態を経験した。尹前大統領は今年4月4日に憲法裁判所の弾劾認容決定により罷免され、「内乱首魁」容疑で裁判を受けている。有罪の場合、死刑または無期懲役が科される重罪だ。 李在明大統領は6月4日に就任し、「光の革命」の成果を継承すると宣言した。しかし韓国政治はまだ癒えていない。李大統領が繰り返し強調する「正義ある統合」は、単なるスローガンなのか、それとも本当に実現可能なビジョンなのか。1年が経った今も、内乱が内乱だったのか、戒厳令が正当だったのか、その判断には決着がついていない。尹前大統領の一審判決は来年2月中に出される見通しだ。金建希の判決は1月28日。これらの裁判の結果が、韓国政治の次の章を決定することになるだろう。 さらに12月3日が「国民主権の日」として記憶されるのか、それともただの政治的パフォーマンスとして忘れ去られるのか。李在明大統領が目指す「正義ある統合」が実現するのか、それとも新たな分裂を生むのか。戒厳令から1年、韓国政治はまだ答えを出せていない。 ただ一つ確かなことは、あの夜に市民たちが示した勇気と連帯が、韓国民主主義の新たな礎石になったということだ。李大統領が言うように、「彼らは大きく不義だったが、我々国民はこれ以上なく正義だった」のである。

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