ラップに巻かれた高級車 出港寸前の積み荷でわかった盗難車の行き先

日本国内で盗まれた自動車が、次々に海外に持ち出されている。 11月、横浜・本牧ふ頭で、船に積み込まれようとしていたコンテナが警察の手で差し押さえられた。中から出てきたのは、ラップでぐるぐる巻きにされた車のドアやエンジン、座席シートだった。 トヨタ自動車の「レクサス」「ランドクルーザー」――。10月に千葉、埼玉両県で盗まれてバラバラにされた高級車9台が海を越えて向かおうとしていた先は、中東のあの国だった。 ◇出港直前の「待った」 警視庁などの合同捜査本部は11月27日、千葉市内で盗まれた車が積み込まれた疑いがあるとして、このコンテナを家宅捜索した。出港直前の積み荷の輸出を止めるという、珍しい捜査だった。 端緒は、捜査員が8月末に茨城県古河市で目を付けた、ある張り込み先だった。 それは畑が広がる一角にある「ヤード」だった。高い塀に囲まれて中はうかがえないが、捜査員は周囲の様子から盗難車の集積所ではないかとみた。 だが、踏み込む機会は限られる。捜査員は、盗まれた高級車が運び込まれる機会を待った。 その頃、一つの進展があった。 10月16日に群馬県館林市で250万円のランドクルーザーが盗まれる事件が起きた。捜査本部は2日間でブラジル国籍の実行役と運び役を窃盗などの容疑で逮捕する。 2人は、取り調べにこう話した。 「これまでに50台くらい盗んだ。(通信アプリの)ワッツアップで指示されて、盗んだ車は古河市の畑で別の人物に渡した」 その場所が、あのヤードだった。やはり拠点になっていた。 ◇高級車が向かう塀の中 捜査員が、実際に盗まれたとみられるランドクルーザーがヤードに入っていく様子を見たのも、この頃だ。それが、複数回あった。 10月30日、家宅捜索に踏み切る。すると、さらに別のランドクルーザーが見つかった。950万円相当の高級車だった。 「ヤードには部品が外された車が何台もあった。海外に密輸出するために、集めた車を解体する場所になっていた」(捜査幹部) 捜査本部は、ヤードにいたアフガニスタンやパキスタン国籍の男性4人を盗品等保管容疑で現行犯逮捕した。 実は捜索の3日前、1台のコンテナがこのヤードから運び出されていた。中には盗難車が入っている可能性が高かった。 その行き先が横浜港だったと捜査員が知ったのは11月4日。船への積み込みは、数時間後に迫っていたという。 捜査幹部は「船は翌日に出港する予定だった。ギリギリのところでなんとか止められた」と振り返る。 ◇開けられた扉、振られた番号 差し押さえたコンテナを東京都内の警視庁の施設に移し、中を開けたのは11月27日。出てきたのは、読み通りに解体された車体だった。 巻かれたラップには番号が振られていた。捜査関係者は「輸出先で再び組み立てるときのためでしょう」とみる。 警視庁によると、見つかった9台分のパーツは、エンジンの個体番号などから、10月中に千葉、埼玉両県で盗難車として届けられていた高級車と特定された。 一連の捜査から浮かび上がったのは、盗まれた高級車があっという間に分解され、短期間のうちに積み荷として船に載せられている実態だ。 ただ今回の事件では、9台のパーツはすべてが見つかったわけでもなく、9台以外の車とみられるパーツも見つかった。既に複数のコンテナが輸出されたとみられている。 ◇今回はアラブ行き 今回、差し押さえたコンテナを積み込む予定だった船の行き先は、アラブ首長国連邦(UAE)。積み荷の宛先はUAEのシャルジャにある会社だった。 捜査幹部は「今も自動車盗は無数に起きている。だが、船に積まれ、海外へ持ち出されてしまえば捜査するのは難しい。輸出前に集められる拠点の捜査を粘り強く続けていくしかない」と話している。【菅健吾、朝比奈由佳】

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