今年のノーベル平和賞を受賞した、ヴェネズエラの反体制派指導者マリア・コリナ・マチャド氏(58)が11日未明、ノルウェー・オスロに到着し、ホテルのバルコニーから沿道に集まった人々に手を振って応えた。マチャド氏が公の場に姿を見せるのは10カ月ぶり。10日に当地であった授賞式には娘が代理で出席した。 マチャド氏らヴェネズエラの反体制派は、昨年7月の大統領選でニコラス・マドゥロ大統領が3選されたとの選管発表は不当だとし、独自の詳細な集計結果をインターネットで発表し続けた。マチャド氏は昨年8月以来、身の危険が高まっているとして、ヴェネズエラ国内で隠れて暮らしてきた。 ヴェネズエラからの出国を禁止されていたマチャド氏は、ひそかにヨーロッパへ向かった。授賞式の直前になり、マチャド氏は自分は「無事」で、オスロに向かっているところだが、オスロ市庁舎での授賞式には間に合わないとする音声メッセージを公開した。 マチャド氏は、マドゥロ大統領の就任に抗議する今年1月9日の集会を最後に、公の場に姿を見せていなかった。 感動的な瞬間は、11日未明に訪れた。マチャド氏は、オスロ市内のグランド・ホテルのバルコニーに登場し、ホテル前に集まった支持者らに手を振り、投げキスをし、一緒に歌を歌った。 その後、ホテルから出てくると、警備用のバリケードを乗り越えて支持者らに近づいた。 群衆は「マリア!」「マリア!」と叫びながら、歴史的瞬間を記録しようと携帯電話を掲げた。 10日に開かれた授賞式では、マチャド氏の娘アナ・コリナ・ソサ氏が母親に代わって賞を受け、演説を代読した。 ノーベル委員会は、マチャド氏の「独裁政権から民主主義への公正かつ平和的な移行を実現するための闘い」を評価し、平和賞を授与した。 ■大義のために「自分が役立つ場所にいる」 マチャド氏は約2年間、3人の子どもたちに会えていなかった。安全のためにソサ氏らを国外に避難させていたためだ。 オスロで支援者らに姿を見せた後、BBCのルーシー・ホッキングス記者のインタビューに応じたマチャド氏は、子どもたちの卒業式や結婚式に出席できなかったと語った。 「16カ月以上もの間、私は誰かを抱きしめたり、触れたりすることができなかった」が、「突然、ほんの数時間のうちに最も愛する人たちに会えて、触れて、一緒に泣いて祈ることができた」と、マチャド氏は述べた。 インタビューに応じたマチャド氏の首からは、たくさんのロザリオが下がっていた。ホテルの前に集まった人々から贈られたものだという。 マチャド氏がヴェネズエラに安全に帰国できるのかをめぐっては、多くの臆測が飛び交っている。 「もちろん、(ヴェネズエラに)戻る」と、マチャド氏はBBCに述べた。「自分が負うリスクは十分承知している」。 そして、「私たちの大義のために自分が最も役立つ場所にいるつもりだ」と続けた。 「つい最近まで、自分がいるべき場所はヴェネズエラだと思っていた。そして今日は、私たちの大義のために私がいるべき場所はオスロだと信じている」 ■マドゥロ政権を「犯罪的構造」として扱うべきと マチャド氏は長年、マドゥロ政権を「犯罪的」だと非難し、国民に団結して政権を倒すよう呼びかけてきた。 ヴェネズエラの野党勢力の中で最も尊敬される指導者の一人だったが、昨年の大統領選への出馬を禁じられた。この大統領選ではマドゥロ氏が3期目(任期6年)就任を決めた。しかし、自由かつ公正に行われたものではないとして、選挙結果は国際社会には受け入れられておらず、多くの国が、マドゥロ氏は不当に国を統治しているとみている。 「現体制(マドゥロ政権)を、従来の独裁政権としてではなく、犯罪的構造として扱う必要がある」と、マチャド氏はBBCに語った。 マドゥロ政権について、麻薬取引や人身売買などの犯罪活動から資金を調達していると非難したマチャド氏は、こうした犯罪資源の「流入を断つ」よう国際社会に改めて呼びかけた。 マドゥロ氏は、麻薬カルテルとのつながりを一貫して強く否定している。 アメリカが最近、ヴェネズエラ沖で麻薬密輸船だとする船舶を攻撃しているなか、米軍がヴェネズエラ領内を攻撃した場合は支持するかと問われると、マチャド氏は直接は答えなかった。代わりに、マドゥロ氏が「我々の主権を犯罪組織に譲り渡している」とマチャド氏は非難した。 そして、「私たちは戦争を望んでいなかったし、戦争を探し求めてもいなかった。(中略)ヴェネズエラ国民に宣戦布告したのはマドゥロだ」と付け加えた。 マチャド氏自身とその陣営は、ヴェネズエラで政権を樹立する用意があるとしている。マチャド氏は、平和的な政権移行を模索するためにマドゥロ陣営に協議を提案したが、「彼ら(マドゥロ陣営)はそれを拒否した」と述べた。 BBCは、インタビューに同席したノルウェー・ノーベル委員会のヨルゲン・ヴァトネ・フリドネス委員長に対し、マドゥロ氏を暴力的に排除する可能性があるなら、マチャド氏の平和賞受賞は矛盾するのではないかと尋ねた。 フリドネス氏は、平和の責任はヴェネズエラの現政権にあると答えた。「権力はマドゥロ政権側にある。平和的な移行を確実に行う責任は、彼らが負っている」。 ■困難とリスクが伴う出国 昨年の大統領選から排除された後も、マチャド氏は自分の代わりに野党候補となったエドムンド・ゴンサレス氏の選挙活動に関わり続けた。 投票所の集計ではゴンサレス氏が圧勝していたにも関わらず、選管当局はマドゥロ氏が3選を果たしたと発表した。 マドゥロ政権は、マチャド氏が外国からの侵略行為を呼びかけたとして、逮捕すると繰り返し警告している。大統領選の結果に抗議したことをめぐっては、マチャド氏をテロリストと呼んでいる。 先月には、ヴェネズエラの検事総長が、マチャド氏はノルウェーに渡ってノーベル平和賞を受賞すれば逃亡犯とみなされ、「共謀、憎悪扇動、テロ行為」の罪に問われることになると述べていた。 そのため、マチャド氏のノルウェーへの渡航には困難とリスクが伴った。 マチャド氏のヴェネズエラからノルウェーまでの渡航の詳細は厳重に秘匿され、ノーベル委員会でさえ同氏がどこにいるのかや、授賞式に間に合うのかを把握していなかった。 米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、マチャド氏が変装して10カ所の軍検問所を通り抜け、沿岸部の漁村から木製の漁船で出国したと報じた。 渡航計画は2カ月かけて練られたと、計画に詳しい関係者の話として同紙は伝えている。マチャド氏は、脱出を手助けするヴェネズエラのネットワークの支援を受けたとされる。アメリカも関与したと同紙は伝えているが、どの程度関わったのかは不明だ。 BBCのインタビューでマチャド氏は、これらを否定しなかったが、詳しい説明は避けた。 「彼ら(ヴェネズエラ政府)は、私はテロリストで、終身刑に処されるべきだと主張し、私のことを探している」とマチャド氏は言い、「だから、こうした状況下でヴェネズエラを出国するのは非常に、非常に危険なことだ」と、マチャド氏は述べた。 「多くの男性や女性が命をかけて私をオスロに送り届けてくれたからこそ、私はここにいる。今日はただそのことを伝えたい」 BBCのインタビューでマチャド氏の隣に座ったノーベル委員会のフリドネス委員長は、マチャド氏の旅路は「極めて危険な状況」下でのものだったと述べた。 そして、「感動的な」瞬間だと語った。 「真夜中に、あなたがここにいるなんて信じられない」、「ノーベル委員会や我々全員にとって、どれほど意味のある事か、言葉では言い表せない」とフリドネス氏は述べた。 平和賞受賞後、マチャド氏は、マドゥロ政権と軍事的緊張関係にあるアメリカのドナルド・トランプ大統領を称賛した。トランプ氏はかねてから、自分が平和賞にふさわしいと述べていた。 こうした中、トランプ氏は10日、米軍がヴェネズエラ沖で石油タンカーを拿捕(だほ)したと発表した。これは、米政府がマドゥロ政権に対する圧力を激化させたことを示している。 トランプ政権は、拿捕した船舶は制裁対象になっているとし、「外国のテロ組織を支援する違法な石油輸送ネットワーク」に関与していたと主張している。 ヴェネズエラ政府は、アメリカが窃盗や海賊行為を行っていると非難した。 (英語記事 Venezuelan opposition leader makes first public appearance after months in hiding)