■「このバスを乗っ取ります」 「西鉄高速バスジャック事件の被害者で、山口由美子と言います。今日は佐賀県から来ました。事件のバスの中の様子から、少し話していきたいと思います」 12月3日、岡山市北区の岡山商科大学【画像(1)】で学生たちに語り掛けたのは、2000年5月の「西鉄バスジャック事件」で被害に遭った、山口由美子さんです。 刃物を持った当時17歳の少年が高速バスを乗っ取り、乗客1人を殺害、4人に重軽傷を負わせた事件です。山口さんは、少年から10か所以上も切り付けられ重傷を負いました。 【第2話】「あの時、死んどけばよかった」知人は刺されて亡くなった 【第3話】背景にあったのは少年の“いじめと孤立”「誰にも話を聞いてもらえんかった。辛かったと思う」 【第4話】事件から5年後 面会した少年から語られた「言葉」とは ■「このバス乗っ取ります」少年は突然立ち上がった 佐賀県に住む山口さんは、知人の塚本達子さんと福岡県で開催されるコンサートに向かうため、高速バスに乗りました。 (山口由美子さん)【画像(2)】 「事件が起きたのは、佐賀駅バスセンターから、福岡の天神へ向かう高速バスの中でした。私は塚本さんと一緒に『天神で行われるコンサートに行こう』というので、このバスに乗りました」 山口さんは、車内で塚本さんと楽しく会話をしていました。そして、バスが高速道路に入ってしばらくした時に、1番前の座席に座っていた少年が突然立ち上がりました。 「少年は『このバス、乗っ取ります。荷物を置いて後ろに行ってください』と丁寧に言ったんですね。あまりに丁寧で、私は一瞬、冗談かと思ってしまったんです」 ■「お前は俺の言うことを聞いていない」少年はいきなり乗客の首を刺した 山口さんは、少年の行動について「最初は冗談かと思った」と振り返ります。 (山口由美子さん)【画像(3)】 「少年は牛刀のような包丁を振りかざしていましたが、私は本気にしませんでした。『なんでこの子はこんなことを言っているんだろう』」 「少年はまだ中学生ぐらいの体格で、不思議に思って、その場を立たずに座っていたんですね」 そのあと、少年の「後ろに行け」という指示に従い、山口さんを含む乗客は車内の後方に移動しました。 「1人だけ居眠りをして、少年の言葉に気が付かない方がいて、(少年がその方に)気づいてその時、逆上しました」 「少年は、『お前は俺の言うことを聞いていない、後ろに下がっていない』そう言って、その方が後ろに下がられた途端、首を刺しました」 山口さんはその時初めて、少年は「本気だった」と気づいたと言います。しかし、まだ「本気で人を殺したい」とか「傷つけたい」と思って生きている子どもはいない、という思いがありました。 「今、少年の心は本来の心ではない、本来の心に戻ってほしい、そういう気持ちで必死で祈っていました」