防犯カメラに写る容疑者の映像をつなぎ、逮捕に結びつける「リレー捜査」。今年8月に神戸市で起きた女性殺傷事件の容疑者特定に大きく寄与するなど、今や必須の捜査手法として全国の警察に定着した。大阪府警は刑事、交通など各部門を横断してリレー捜査を一手に担う専門組織を持つ。その最前線には、靴底を減らして歩く昔ながらの捜査員たちがいる。 「絶対に逃げ得は許さない」。大阪府警の防犯カメラ捜査を集約する犯罪対策戦略本部。ここでカメラ捜査を統括する前川富一警部はそう言葉に力を込めた。 府警は平成27年、防犯カメラ映像の収集・解析・分析を一元的に行う犯罪抑止戦略本部を立ち上げた。従来、所轄署や各部署で行われていた防犯カメラ捜査を一手に担い、事件を迅速解決につなげるのが目的。部門を横断して防犯カメラ捜査に特化する組織は当時から全国的に珍しかった。 令和2年に現在の犯罪対策戦略本部に名称変更。以来、捜査員の間では「犯対(ハンタイ)」と呼ばれている。設立から今年で10年。1年間で担当するカメラ捜査の数は600件にも上る。 今年3月、大阪市住吉区の薬局で発生した強盗致傷事件も、ハンタイのリレー捜査が容疑者逮捕の一助となった。 午後9時過ぎ、黒のジャンパーを着た男が薬局のカウンター内に押し入り、女性店長に「金を出せ」と刃物を突き付けた。男は女性を手錠やロープで縛り、現金22万円を奪って逃走した。 24時間態勢で警戒にあたるハンタイの機動支援捜査班にも、発生直後に支援要請があり、班員が現場へ急行した。犯行現場の防犯カメラが捉えた男の服装や体格を頭にたたき込み、周辺の民家や施設のカメラを確認。USBでカメラとパソコンをつなぎ、映像を1台ずつ調べた。だが、しばらくすると容疑者はカメラがない場所に入り、後を追えなくなった。 いくら街頭のカメラが増えたといっても、こうして足取りが途絶えるのはリレー捜査の常。ここで求められるのが捜査員の〝センス〟という。 多くのメンバーに刑事経験があり、現場で「自分ならどこを通り、どう逃げるか」と容疑者目線で思考を巡らせる。犯罪者心理を予測し、カメラ捜索の範囲を拡大した結果、現場から離れた駅を利用する姿をとらえた映像に行きついた。その後のリレーで降車駅や自宅マンションを特定、容疑者の男は事件から2週間後に逮捕された。