刑事裁判をやり直す再審制度は、無実の罪に問われた市民を救済する「最後の砦(とりで)」である。相次ぐ冤罪(えんざい)被害の反省に立った議員立法で、一刻も早い再審改革に手を尽くすべきだ。 改正法案は、国会議員の半数を超える約390人が名を連ねる超党派の議員連盟がまとめ、6月に衆院へ共同提出した。 しかし、自民党内で法相の諮問機関・法制審議会の議論を待つべきとの声から、継続審議となり、今国会でも審議入りできていない。 再審制度に関わる刑事訴訟法は、1949年の制定以来ほぼ変わっていない。 議連の改正案では、現行法で明確な規定がない証拠開示の制度化や、再審開始決定への検察側の不服申し立ての禁止などを盛り込んだ。証拠をほぼ独占する検察側に、開示を促すかは裁判官の裁量という格差があることや、不服抗告で再審請求審が長期化している問題点を踏まえた内容と言えよう。 これに対し、法制審の部会では、証拠開示の対象範囲を「弁護士が提出する新たな証拠に関連する部分」に限定する案が浮上。明文化されれば、冤罪を生み出した現行制度をさらに後退させることになる。 元裁判官63人や多くの刑法学者らも改悪だと批判している。 法制審は、再審法改正に後ろ向きとされる検察出身者が多い法務省刑事局が主導し、議員立法に「待った」をかける形で唐突に諮問された。 証拠開示では、66年の静岡県一家4人殺害事件で犯行着衣とされた「5点の衣類」のカラー写真が開示されたことが再審無罪の決め手となった。対象が限定されれば、こうした新証拠が埋もれたままになりかねない。 検察官の不服申し立てでは、滋賀県の日野町事件の場合、2018年の大津地裁、23年の大阪高裁での再審開始決定に対し抗告があり、現在も最高裁で審議が続いている。 袴田さんの事件では、再審開始決定への検察の抗告で無罪確定まで10年以上もかかり、逮捕から58年もの時間を奪った。 個人の自由と尊厳の救済を遅延させる行為であり、見過ごすことはできない。 自民内からも稲田朋美元防衛相が衆院法務委員会で、検察の証拠隠しとそれを追認する法制審の議論を問題視して法相を追及し、超党派議連の法案に沿った改正を行うよう求めた。 京都府と府内の26市町村や滋賀県など全国の地方議会では、国に再審法改正を求める意見書の採択が相次いでいる。 議員立法を先行させ、必要ならば法制審の意見を反映させる修正をしてはどうか。 国権の最高機関として、与野党の多数が支持する人権救済を実現する法案を、速やかに審議するべきだ。