『バーニング 劇場版』『ザ・コール』『PROJECT Y』…ハリウッド大作への出演も控える“美しき異端児”チョン・ジョンソの魅力

世界的に知られる名匠イ・チャンドン監督作品でデビューして以降、予測不可能で爆発的な感情表現としなやかな肉体を生かしたアクションで、誰にも真似できないキャリアを歩んできたチョン・ジョンソ。最新作の『PROJECT Y』(2026年1月23日公開)では、ドラマ「わかっていても」「マイネーム: 偽りと復讐」のハン・ソヒとタッグを組み、どん底から這い上がろうとする女性たちの命懸けの奮闘を見せている。新たなハリウッド映画出演のニュースも聞こえてきた注目の俳優“チョン・ジョンソ”の魅力を、これまでの歩みを振り返りながら見ていこう。 ■底辺から抜けだそうともがく2人の女性の闘いを描く『PROJECT Y』 韓国でも珍しい、女性ツートップ映画『PROJECT Y』。幼いころからの親友で、苦楽を共にしてきたミソン(ソヒ)とドギョン(ジョンソ)のハードボイルドな日々を描く。夜の街でクラブのホステスとして働くミソンとドライバーのドギョン。2人は金を貯め、新しい人生を始める日を心待ちにしていたが、ある日、裏切りによりミソンが大切にしてきた金を奪われてしまう。その背後に、新たにやってきたクラブのボスの存在があることを知った2人は、復讐を決意する。 本作でジョンソが演じているのは、親友ミソンとの未来のために、ボスの隠し資金を奪おうとするドギョン。欲望と暴力がうごめく街で生き抜いてきたタフな人物で、運転のプロフェッショナルという設定だ。口よりも行動で示す人物のためセリフは少ないが、ふとした仕草や表情で繊細な感情を見せている。共演のソヒとは実生活でも仲がいいとのこと。「共演すれば脚本に書かれている以上のものを表現できるはずだ」と考え、出演を決めたそうだ。何度も襲いかかる逆境に正面から挑みかかっていく姿が力強く、爽快感を与える。 ■演じるキャラクターごとに独自の存在感を放つ 大学在学中にオーディションを受けた『バーニング 劇場版』(19)でデビューしたジョンソ。村上春樹の短編「納屋を焼く」をもとにしたこの映画では、大学を卒業後、小説家を目指しながら生きる青年の幼なじみの女性に扮した。青年の前に突然現れて近づき、やがて姿を消してしまうミステリアスな人物像と、新人である彼女自身の新鮮さが重なり、「この俳優は誰だ?」と観客を驚かせた。カンヌ国際映画祭にも参加し、期待の俳優として第一歩を踏みだした。 Netflixで配信されたホラー映画『ザ・コール』(20)では、俳優としての底知れぬパワーを印象づけた。演じたのは母親によって家に閉じ込められ、徐々に常軌を逸していく女性ヨンスク。電話を通して、20年後の同じ家に暮らす同い歳の女性ソヨン(パク・シネ)と知り合ったヨンスクは、彼女に聞かされた自分の未来を変えようと行動し、ソヨンの現在に影響を与えていく。“母親の支配下にある不幸な女性”から、“狂気を感じさせる凶暴な人物”への変化を鬼気迫る演技で見せ、第57回百想芸術大賞の映画部門女性最優秀演技賞を獲得した。 ■多岐にわたるジャンルの作品に出演し、ハリウッドにも進出! 自身がもともと持っているエネルギーをぶつけるような役柄が続いていたジョンソが新たな可能性を見せたのが、デートアプリで出会った相手との微妙な関係を描くラブコメディ『恋愛の抜けたロマンス』(22)。恋愛に不信感を持つ20代女性という等身大の役柄を楽しそうに演じた。この映画の翌年にドラマ「私の解放日誌」で大ブレイクしたソン・ソックとの、赤裸々でテンポのよい会話の応酬が笑いを誘うこの映画では、チャーミングな魅力が光った。 これまでの韓国人俳優の枠にはまらないジョンソが次に選んだのは、ハリウッドの新鋭アナ・リリ・アミリプール監督が手掛けた『モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』(22)。長い間、隔離されていた精神病院内で他人を操る能力に目覚め、街に出ていく女性モナ・リザに扮した。言葉ではなく視線によって自分の思うように相手を動かしていくというキャラクターは「視線は100の言葉よりも雄弁」と考えるジョンソにぴったりだった。まるで野生児のように見えたモナ・リザは、彼女の能力を利用して金を稼ごうとするシングルマザーとその息子との交流によって少しずつ人間らしさを見せるようになっていく。 冒頭から激しいアクションを見せて観客を引きつけた『バレリーナ』(23)は、『ザ・コール』のイ・チュンヒョン監督と再び組んだ作品。要人の警護をしていた経験を持つ主人公が、親友の死をきっかけに、その背後にある組織と戦うことを決意する。過剰さを恐れないスタイリッシュな映像のなかで圧倒的な存在感を発揮。体力面を補うため感情を込めて演じたというアクションシーンでもさらなる進化を感じさせた。 『バレリーナ』で宿敵チョイを演じたキム・ジフンと同じチームの一員となったのは、Netflixを代表する人気シリーズをリメイクした「ペーパー・ハウス・コリア: 統一通貨を奪え」。“銀行ではなく造幣局を襲い、紙幣を印刷して盗む”という奇想天外な計画に挑む強盗団たちと、人質を解放し犯人たちを逮捕しようと知恵を絞る警察官たちとのスリリングな頭脳戦を描くこのドラマでは、強盗団の一員で語り手となるトーキョー役を演じた。 デビューから7年。女性が演じるキャラクターの領域を大きく広げてきたジョンソ。次回作は、「ジョン・ウィック」シリーズのチャド・スタエルスキ監督が手掛けるハリウッド大作『Highlander(原題)』となりそうだ。1986年製作のファンタジーアクション『ハイランダー 悪魔の戦士』のリメイクで、『ジャスティス・リーグ』(17)などでスーパーマンを演じたヘンリー・カヴィルが主演を務める。果たして彼女はどんな役柄で登場するのか。完成が待ち遠しい。 文/佐藤結

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする