狭い歩道を130メートルにわたって車が暴走し、たまたま居合わせた6人が次々にはねられた。81歳の男性は20メートル近く飛ばされ、亡くなった。 その運転手が再び逮捕された。容疑は殺人。警察が下したのは、暴走は車という「凶器」を振り回したに等しいという判断だった。 東京都足立区で盗難車が暴走して14人が死傷した事故で、うち6人を歩道ではねて殺傷したとして、警視庁交通捜査課は5日、車を運転していた足立区六月2の職業不詳、横尾優祐容疑者(37)を殺人と殺人未遂、道路交通法違反(ひき逃げ)容疑で再逮捕した。 歩道での速度は時速60キロ超に達しており、警視庁は、横尾容疑者がそのスピードで車を走らせれば、人をはねて死傷させる可能性があると認識していたとみて、「未必の故意」による殺意があったと判断した。 ◇「死ぬ可能性、分かっていた」と供述 警視庁や捜査関係者によると、横尾容疑者は、これまでの調べに「パトカーから逃げていたが、冷静に運転できていた」と話す一方、「歩行者に時速60キロで突っ込めば亡くなるかもしれないことは分かっていた」とも供述しているという。 事故は2025年11月にあり、足立区の車販売店から盗まれた展示前の乗用車が、国道4号で赤信号を無視して交差点に進入。横断歩道上で女性(当時28歳)をはねた後に次の交差点直前で歩道に入って暴走し、再び車道に戻ってトラックにぶつかるなどして停車した。2人が死亡、12人が重軽傷を負った。車は事故直前、400メートルにわたってパトカーに追跡されていた。 横尾容疑者は車を盗んだ窃盗容疑や、女性を死亡させた自動車運転処罰法違反(危険運転致死)などの容疑で逮捕されていた。 今回の逮捕容疑は、25年11月24日午後0時半ごろ、足立区梅島2の歩道を車で走行し、近くの無職、杉本研二さん(当時81歳)をはねて死亡させ、ほかに50~70代の男女5人をはねて重軽傷を負わせたうえ、その場から走り去ったとしている。今回の容疑について黙秘しているという。 車は植え込みを除けば幅3メートルほどの歩道を130メートルにわたり走行。死亡した杉本さんは自転車にまたがって信号待ちをしているところだった。 横尾容疑者はこれまで、「捕まりたくなかった」と話し、暴走はパトカーの追跡から逃れるためだったとの説明を続けてきたという。警視庁は、横尾容疑者が車で塞がっていた車道から左側の歩道に乗り上げて加速したとみている。 ◇「未必の故意」による殺意 横尾容疑者からは、明確に殺意があったことを裏付ける供述はないという。ただ警視庁は、歩道走行により人が死んでも構わないという未必の故意による殺意を問えると判断し、殺人容疑を適用した。 そこに至った理由には、容疑者本人の認識に加え、現場の客観的な状況が挙げられる。 歩道走行時について、横尾容疑者はこれまでに「はねる前に男の人(杉本さん)が右前にいるのは見えた」と供述。「時速60キロで突っ込むとどうなるか」という捜査員の質問に「亡くなるか、けがをしちゃうと思う」と答え「自分が悪かった」とも話したという。 交通捜査に詳しい高橋正人弁護士(第二東京弁護士会)は「歩道を走れば人をはねて死なせるかもしれないと思うはず。それでも構わないと思って実行すれば、未必の故意があるということになるだろう」と説く。 また警視庁によれば、現場の歩道は、ガードパイプや縁石で車道と区切られ通常は車が通れず、近くに区役所や飲食店があり人通りが多い場所だった。 警視庁は、こうした状況に加え、2人が死亡、12人が重軽傷を負った結果の重大性も考慮した。被害者や遺族の中からは厳罰を望む声も上がっていたという。【菅野蘭】