玉木宏という演技者が放つ魅力は、年を重ねるごとに増している。映画にドラマにと硬軟自在なパフォーマンスで魅せる彼は、出演作ごとにそのキャリアを更新し続けている。そう私たちの誰もが知っている。2024年にはじまった『ゴールデンカムイ』シリーズでの怪演が光るいっぽうで、配信中の『イクサガミ』(2025年/Netflix)では武士としての誇りを取り戻そうと奮闘する剣豪をかぎられた出番の中で好演。ここまでのキャリアを築き上げる過程で、演技の振れ幅も非常に大きくなってきた。 そんな彼が主演を務めるドラマの放送が間もなくはじまる。『プロフェッショナル 保険調査員・天音蓮』(フジテレビ系)である。同作で玉木は“沈着冷静な最強保険調査員”を演じるのだという。果たしてそれはいったい、どのようなものなのだろうか。 本作の物語の舞台は、“保険金”が絡んだ事件や事故を調べる保険調査専門会社「深山リサーチ」。玉木が演じる主人公・天音蓮は一般社会の常識やコンプライアンスに囚われることのない保健調査員で、真相解明のためならば手段を選ばない、そんな人物だ。かつては警視庁捜査一課の敏腕刑事だったが、とある保険金殺人事件で犯人の逮捕に失敗し、その責任を取って辞職。やがてこの職場にたどり着いた。優れた観察眼と洞察力を持つ彼は、どうやらここのエース的な存在らしい。 このドラマは天音を筆頭とする調査員たちの活躍を描きながら、彼が刑事職を離れることになった過去の事件に接近していくのだろう。かなり特異な設定の作品なだけあって、玉木の俳優としての力が問われることになりそうだ。座長=主人公の佇まいや振る舞いに説得力がなくては、たちまち視聴者は離れていってしまう。しかも「深山リサーチ」の面々は、調査対象と関係のある人物たちに対して、ときに小芝居を仕掛けては翻弄することもあるという。 つまり玉木たちは入れ子構造的に、天音蓮というキャラクターを演じながら、劇中ではまた別の何かを演じ続けなければならないわけだ。俳優たちはより高度で、胆大心小な演技を求められることになる。これこそ、私たちが待っていたものではないか。硬軟自在で振れ幅の大きさを拡げ続ける玉木宏という演技者の、現時点における真価に触れられる機会になるのではないだろうか。 玉木は自身の演じる役どころについて「一言で表現すると“くせ者感”が強い人物です。今後の内容で、理由は明らかになりますが、あまり素直な部分を見せない、見せられない、見せたくない性格だと思います。元職場の上司であった人物の前では、天音の素に近い部分が出ているかもしれません」(※)と述べている。興味深い発言だ。つまりは天音という存在そのものがかなり複雑であり、クールな天才型の主人公ではないということ。この複雑さを玉木はどう表現し、ドラマの一部となり、エンターテインメント作品として昇華させていくのか。天音蓮との出会いの時が待ちきれない。 1年のはじまりからプライム帯で放送されるドラマで主演を務めるとは、玉木は幸先のいいスタートを切ることになる。彼が新境地を切り拓くこととなった“鶴見中尉”を演じる『ゴールデンカムイ 網走監獄襲撃編』が3月に封切られることもあり、この2026年は玉木にとって重要な年になるのではないだろうか(もちろん、重要でない年などないのだが)。そしてこの2026年は、彼のキャリアにおいてほかにも特別な意味を持っている。そう、玉木が力のある若手俳優としてその存在を世に知らしめた2006年から、まる20年が経つのだ。 2006年に放送されたドラマ『氷壁』(NHK総合)にて連ドラ初主演を飾った玉木は、初の大河ドラマ『功名が辻』(NHK総合)で山内康豊を好演。地上波では『トップキャスター』(フジテレビ系)にて主要な役どころを担い、主演を務めた『のだめカンタービレ』(フジテレビ系)は長い時を経たいまもなお「名作」として語られている。そして、主演した『ただ、君を愛してる』もまた、「名作」に位置付けられる純愛映画だ。こうして並べてみることで、2006年が俳優・玉木宏にとっていかに重要な年だったのか分かるだろう。あれから20年ーーこの2026年の玉木の演技には、彼が演技の道を歩む過程で積み重ねてきた時間そのものが反映されることになるはず。噛み締めたいものである。 参照 ※ https://realsound.jp/movie/2025/11/post-2216692.html