宗教2世の苦悩…フィクションの可能性に挑む 「暁星」の著者・湊かなえさんに聞く

デビューから29冊目となった本作。書き上げた時、全てのピースがきれいにはまり、一枚の絵になったような手応えを感じたという。「自信を持ってお届けできる、いままでで一番好きな作品になった」と納得の表情を浮かべる。 物語のモチーフは安倍晋三元首相銃撃事件。被告が宗教2世の苦悩を事件の動機として語ったことで「1990年代に話題になった宗教がまだ活動していたことや、それによって苦しんでいる人が今もいることに驚いた」と明かす。 同時に自身の人生を振り返り、「阪神・淡路大震災など何回か自分もそっち(信者)側に行く分岐点があったな、と」。そんな思いから「誰もが知る事件を入り口に、『自分事』として宗教2世の物語を読んでもらいたかった」と話す。 文部科学大臣であり文壇の重鎮、清水義之が衆人環視の中で刺殺された。逮捕されたのは37歳の男、永瀬暁(あかつき)。永瀬は週刊誌に手記を寄せ、母親が熱心に信仰し、清水が深く関わったとされる宗教団体「愛光教会」への恨みをつづる。 本作はこの永瀬の手記と、事件を題材に宗教2世の女性作家金谷灯里(かなたにあかり)が書いた小説「金星」という二重の構造で進行する。「金星」を読んだ後、手記を通して読者が見ていた世界は一変する。 一般に手記はノンフィクションと捉えられるが、うそを書かずとも、書き手にとって都合の良い情報を選択的に並べることもできる。「与えられた言葉が全てなのか。その隙間にあるものを想像したり、疑問に思ったり。そんな気付きがある書き方をしたかった」。一方で、小説はフィクションだが「想像で補うことによって真実に迫れる側面もある」。 一つの事象を異なる視点から浮き彫りにしていく筆致は鮮やかだ。「一方の情報だけで判断する危うさを描けたかな。物語の持つ可能性に作家として挑めた」と充実感をにじませる。 母親が宗教に傾倒しながらも自身は信仰の外側にいる永瀬。母娘共に内側にいる金谷。これまで多くの作品で描いてきた「親子関係」が、本作の根底にも流れる。2世にとって親が信仰する宗教を否定することは親への裏切り、親子関係の否定に直結する。子どもたちの苦悩、葛藤は深く、暗い。 その「絶望の闇の中に光を見いだすような物語にしたかった」。本書で示した救い。「一読した後に、もう一度読みたいと思ってもらえたらうれしい」(小尾絵生) (「暁星(あけぼし)」は双葉社・1980円) 【みなと・かなえ】1973年広島県生まれ。2007年「聖職者」で小説推理新人賞を受賞し、同作を収録した「告白」で08年にデビュー。同作で09年本屋大賞。16年「ユートピア」で山本周五郎賞。ほかに「人間標本」「C線上のアリア」など。洲本市在住。

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