熊本県で起きた殺人事件を巡り、ハンセン病患者とされた男性が隔離先の「特別法廷」で死刑判決を受けて1962年に執行された「菊池事件」の第4次再審請求審で、熊本地裁は28日、やり直しの裁判(再審)を認めない決定を出した。中田幹人裁判長は特別法廷を憲法違反と認めた一方、「確定判決の事実認定に重大な誤認を生じさせたとまではいえず、再審開始理由に当たらない」と判断した。弁護側は即時抗告する。 特別法廷の設置は厳密な検討が必要だが、最高裁は48~72年、ハンセン病を理由に95件を機械的に許可。そのうち菊池事件は唯一の死刑事件だった。最高裁は2016年に出した調査報告書で特別法廷は「合理性を欠く差別」と認め、謝罪。20年には菊池事件を巡る訴訟で熊本地裁が特別法廷を違憲と認定し、翌21年に遺族が再審請求した。「違憲の特別法廷で審理されたこと自体が再審開始理由になる」という弁護側の主張を地裁がどう判断するかが焦点だった。 地裁決定はまず、確定判決の審理手続きに憲法違反があり、事実認定に重大な誤認を生じさせる場合は再審開始の余地があると判示した。 その上で菊池事件の特別法廷を検討。ハンセン病が不治の病ではなくなっていたのに十分検討せずに事実上非公開の特別法廷で審理したのは「合理的理由のない差別」とし、法の下の平等を定めた憲法14条1項に違反すると認めた。人格権を保障した13条に違反する疑いも強く、裁判の公開原則を定めた82条1項違反の疑いもあるとも述べた。 一方、審理経過からは差別的な取り扱いによって被告の弁護人選任権などが侵害されたとまでは認められないと指摘。「憲法に適合した公開法廷で審理を実施したとしても証拠に変動はない」とし、憲法違反を理由に再審開始は認められないと判断した。 弁護側は、有罪の根拠とされた凶器や親族供述には疑義があるとする鑑定書を新証拠として提出したが、決定は「確定判決に合理的疑いを生じさせるものではない」とし、再審請求を棄却した。 熊本地検の加藤和宏次席検事は「請求棄却の結論は妥当」とのコメントを出した。【野呂賢治】 ◇熊本地裁決定 骨子 ・菊池事件の特別法廷は合理的理由のない差別で、法の下の平等を定めた憲法14条に違反する ・審理手続きの違憲性が直ちに再審理由とはならない。菊池事件は憲法適合の審理をしたとしても確定判決の証拠に変動はなく、再審開始は認められない ・弁護側提出の新証拠はいずれも確定判決の認定に合理的疑いを生じさせず、再審請求を棄却する ◇菊池事件 熊本県北部の村で1951年8月に起きた元村職員殺人未遂事件で、国立ハンセン病療養所「菊池恵楓園(けいふうえん)」=同県合志(こうし)市=への入所勧告を拒んでいた男性(当時29歳)が逮捕された。患者だと県に報告されたことを恨んでの犯行とされ、園内に設置された特別法廷で懲役10年が言い渡されたが、1週間後に逃走。指名手配中の52年7月に元村職員が刺殺体で見つかった。殺人容疑などで逮捕された男性は再び特別法廷で裁かれ、53年8月に1審で死刑判決を受けて57年に確定。62年9月に第3次再審請求が棄却され、翌日に死刑が執行された。