強権をかざして異論を抑えこもうとした暴挙を、司法が厳しく断罪したのは当然であろう。 韓国のソウル中央地裁は、一昨年12月に「非常戒厳」を宣言し、内乱首謀罪に問われた前大統領、尹錫悦(ユンソンニョル)被告に無期懲役を言い渡した。 戒厳令を出して軍を国会に突入させ、議員の拘束や言論の統制を試みたことを、憲法に基づく秩序を損ねる内乱と認定し、「民主主義の核心的な価値を壊した」と指弾した。 求刑は死刑だったが、直接的な暴力の行使がほぼなかった点や、大部分が失敗に終わった点が考慮された。 尹氏は判決を不服として上級審に控訴した。大統領経験者として史上2人目の無期懲役判決を受けた重大さは、受け止めるべきである。 戒厳令は軍事独裁政権下で繰り返されたが、1987年の民主化以降では初めてだった。 裁判で尹氏側は、非常戒厳を宣言したのは、多数派の野党が国政運営を妨害したためだったと主張した。 大勢の議員や市民が盾となり、議会の決議で数時間後には解除されたものの、大統領が軍を動かして国会を封じようとした衝撃は大きい。 40年近く積み上げてきた民主主義のもろさを、韓国社会に突きつけたといえよう。 韓国では、歴代大統領のうち、朴槿恵(パククネ)氏ら4人が退任した後に収賄容疑などで逮捕された。 南北対立から大統領に権力が集中する仕組みと、保革勢力の争いが背景とされる。 深刻なのは、戒厳令が国民の分断をいっそう広げたことだ。 裁判所は「韓国社会が政治的に分裂し、極限の対立状態に陥った」と指摘した。 判決に対しても、革新側の市民たちは「尹再来を防ぐには、死刑しかない」と声を上げる一方、尹氏の支持者らは、無罪だとして「尹、アゲイン(再び)」などと訴えた。 与野党は民主政治を擁護し、再強化への対話を重ねてほしい。 6月には、与野党が激突する統一地方選が行われる。 「全国民の大統領になる」として政権転換した李在明(イジェミョン)氏は、国民の間にある深い亀裂を修復する努力が問われよう。 内政を安定させ、自由や民主主義を共通価値とする日本とともに、不透明さを増す東アジアの安定に力を注いでほしい。