社説:精神科の虐待 人権侵害 放置許されぬ

隠蔽(いんぺい)したケースがあることも踏まえれば、被害は「氷山の一角」ではないか。 全国の精神科病院で看護師や医師ら職員による患者への虐待が、2024年度に260件あったと、厚生労働省が公表した。 虐待を発見した人の自治体への通報が同年4月に義務化されたのを受け、15〜19年度の5年間の虐待疑い事例の約3倍となった。被害が大幅に顕在化したといえる。 身体的虐待と心理的虐待が大半で、性的虐待も1割近くあった。 加害者351人のうち、看護師が6割を占め、准看護師、看護助手と続く。医師も14人いた。 虐待認定数が最も多かったのは大阪府の25件。京都府4件、滋賀県2件も含まれる。 通報義務化の後も、岐阜県の病院が看護師による虐待を通報しなかったことが判明している。 多くの虐待が潜在化しているとみるべきであろう。 20年には神戸市の病院で6人、23年にも東京都八王子市の病院で5人の看護師らが患者への暴行容疑などで逮捕・書類送検された。 神戸の事件では男性患者同士でわいせつな行為をさせたり、ホースで水をかけたりするなど、卑劣な犯行が社会に衝撃を与えた。 虐待の背景に、医療行為として認められている身体拘束や隔離が、言うことを聞かない患者への制裁に用いられていると指摘されて久しい。 患者への「上から目線」の対応が常態化し、院長も虐待を隠蔽していたという証言もある。閉鎖的になりがちな精神科病院で、倫理の崩壊は深刻である。 患者の人権と尊厳を守る教育の徹底は言うに及ばず、外部の目を入れるのも重要であろう。 市民らが入院患者の相談に乗る訪問支援事業が24年にスタートした。対象の患者は一部に限定されており、拡大が急務だ。 そもそも諸外国では、施設ではなく地域で暮らしながら治療するのが主流となっている。 国連も日本の精神科医療の人権侵害を懸念し、強制的な入院や治療の廃止を勧告している。 しかし4年前に厚労省の有識者検討会がまとめた報告書は、当初目指した強制入院制度の縮小を見送るなど、内容は後退した。 高齢化が進む中、誰もが認知症になる可能性がある。若い世代を含めて心の病を抱える人は増えており、ひとごとではない。 開かれた精神医療のあり方を、改めて議論すべきである。

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