「東京で無差別殺人を起こせば死ねる」──。もしかしたら、取り返しのつかない事件が起きていたかもしれない。東京での無差別殺人を計画したとして、富山県滑川市に住む無職・毛利勝己容疑者(53)が殺人予備の疑いで逮捕された。 男は東京へ向かうバスの切符を買っていた。しかも片道。ナイフを1本所持していたとされる。実は逮捕される前、男はある人物にメッセージを送っていた。 「最近生きるのにも疲れれてきたんで、秋葉のように楽しくヤってタヒもイイかとよく思うようになりました」 メッセージを受け取った大友秀逸氏は、2008年に東京・秋葉原で起きた無差別殺傷事件の加藤智大元死刑囚の友人だった。「タヒルってネットの隠語で『死ぬ』という意味合いのことを急に言ってきた人なので」(大友氏、以下同) 男が書いたメッセージにある「秋葉」とは秋葉原無差別殺傷事件のことを指していた。 「『覚悟を決めて東京のほうに片道切符で行きます』みたいな書き方をあえてしてきた。『事件を起こすつもりですか?』っていう聞き方をしたら『言及は差し控えたい』って返ってきて、それが通報の確信になった」 ネットで様々な相談と向き合っている大友氏は、危険を察知し警察に通報した。 「自分はなぜあの凶行を止められなかったのか」大友氏は秋葉原無差別殺人事件をきっかけに人生を変え、「加藤の友人」として顔出しで情報発信を始めた。毎日のように届くメッセージに耳を傾け、真摯に返事を書き続けた。時には直接会いに行くこともあった。今回も最初はそんな相談の一つに思えた。 しかし、やりとりを続けるうちに、ほかとは違う何かに大友氏は気づいた。いったい何があったのか。 逮捕された毛利容疑者は調べに毛利容疑者は概ね容疑を認めており、秋葉原の無差別殺傷事件を意識していたという趣旨の話をしているという。毛利容疑者は「物価高による生活苦から死にたいと思い、東京で無差別殺人を起こせば射殺されるか死刑になるから死ねると思って東京行のバスを予約した」と供述している。富山発東京行きのバスを予約した上で、リュックサックにナイフ1本入れるなどの殺人の準備をした疑いが持たれている。バスの切符は片道分だけを購入していたという。 毛利容疑者が大友氏の存在を知ったのは「ABEMA的ニュースショー」だった。 「ABEMA的ニュースショーに6月に千原ジュニアさんの番組に呼ばれて(取材を受けて)、それを見たっていうことだったんで、秋葉原事件に興味ある人かなとは思ったんだけど、ちょっと内容が内容だから……」 同番組では、事件発生から18年となる秋葉原無差別殺傷事件を特集。この事件をきっかけに人生を大きく変えた人を取材した。大友氏もその一人だった。 加藤元死刑囚と出会ったのは2003年、仙台の警備会社だった。同じ職場の同僚で友人。退職後もメールや電話でつながっていたが、やがて疎遠に。そんな時、秋葉原の事件は起きた。 2008年6月8日、加藤元死刑囚は歩行者天国にトラックで突入。さらに刃物で通行人を襲い、7人が死亡、10人が重軽傷を負った。 大友氏が事件とどう向き合ってきたか、そして実名で加藤元死刑囚の知人であることを公表し、それが原因で職場で干されアパートも契約解除になった、それでも事情を抱える人たちと向き合う理由を伝えた。毎年6月8日には事件現場に立ち手を合わせる。そして2023年9月、みずから保護司になった。「加藤の友人」活動では、生きづらさを抱えた人の相談に否定せず同じ土俵で話を聞き続けた。この放送を毛利容疑者は観ていたのだ。 「『ABEMA見ました』は僕の中では多い。無差別殺傷とかピンポイントで特集したりとかするから、やっぱり興味がある人が見る。死にたいって自分に対する矛先の相談が多い。消えてしまいたい。だから他者に対して殺したいっていう衝動は本当に100人に1人ぐらいの頻度。まずその時点で珍しくて、深く聞いてくと、何か自分を秋葉原の加藤のような人間でって語る人が多くて」 7月1日よる8時5分のことだった。大友氏にメッセージが届く。 「初めまして、こんばんは。ABEMAで拝見しフォローさせていただきました。最近生きるのにも疲れてきたんで、秋葉のように楽しくやってタヒもイイかとよく思うようになりました。世間は否定が強い傾向なのが理解に苦しみます。意見をもらえたら嬉しいです」 大友氏はこう返信した。 「法に触れることは明確に否定しますが、それは世間の否定と同義になりますか?」 大友氏によると、毛利容疑者は「秋葉原のような事件を起こして最低でも7人の命を奪って、遺族の記憶に残るような伝説になりたいみたいな」思いを抱いていたという。やがて身の上話も始まり、やり取りは1日2往復ほど。だが、ある一言で空気が変わる。大友氏が尋ねていないのにも関わらず、毛利容疑者は「覚悟を決めて東京へ片道切符で行きます」と伝えてきた。 大友氏は単刀直入に聞いた。 「事件を起こすつもりですか」 すると毛利容疑者は… 「言及は差し控えたい」 大友氏はこのメッセージについて、「他の人から持ってきた言葉じゃなく、オリジナルのような印象を受けた。“この人、本気でやろうとしている”空気感を感じた」という。 7月11日、大友氏は警察に相談。富山県警につながれ、情報を伝えた。さらに「13日夜の夜行バスで14日早朝新宿着」という情報も伝えた。そして翌7月12日、毛利容疑者は殺人予備の疑いで逮捕された。 実は大友氏の通報は、これまで空振りも多かったという。 そして、今回の逮捕には難しさもある。殺人予備罪は「殺しようと考え準備した」段階で罰する。内心の計画をどこまで証拠で示せるか、立件のハードルは高いとされる。 阪口采香弁護士は「SNSのコメントや計画だけでは立証は困難です。それに沿うような客観的証拠があるかどうか。殺人を犯す動機があるかどうかなど様々な事情を考慮して判断されます」と解説する。 過去にはオウム真理教の一連の事件で殺人予備容疑で捜索が行われた例があるが、刑は最高で2年。仮に有罪でもいずれ社会に戻る。 「死ぬために人を巻き込もうとする人」をどう見守り再犯をどう防ぐのか。犯罪心理学者の出口保行氏は「本人がリスクとコストをどれくらい意識していたのか。それが一番重要なポイントになってくる」と指摘する。大友氏は「やっぱり孤立させちゃうと、今回も一人で暴走したら本当誰も止められなかったかもしれないし」と語る。 加藤元死刑囚は犯行当日の早朝、インターネットの掲示板にこう書き込んでいた。 「秋葉原で人を殺します」 「車でつっこんで、車が使えなくなったらナイフ使います」 「みなさんさようなら」 この書き込みのおよそ7時間後、事件は起きた。 (『ABEMA的ニュースショー』より)