検察「証拠隠し」で賠償責任は 再審無罪「松橋事件」巡り2審判決へ

1985年に熊本県松橋(まつばせ)町(現宇城市)で男性が殺害された「松橋事件」で、服役後に再審無罪が確定した宮田浩喜さん(2020年に87歳で死去)の遺族が、国と県に国家賠償を求めた訴訟の控訴審判決が27日、福岡高裁(岡田健裁判長)で言い渡される。1審・熊本地裁判決は国の責任を一部認めた一方、県への請求は棄却した。控訴審では、再審制度を見直す刑事訴訟法改正で議論となった検察による「証拠隠し」や、県警による取り調べの違法性の有無が争点で、高裁の判断が注目される。 ◇「松橋事件」再審無罪までの経緯 事件は85年1月8日に松橋町の民家で男性(当時59歳)の遺体が見つかり、その3日前に男性宅を訪れていた宮田さんが逮捕され、殺人罪などで起訴された。 宮田さんは捜査段階で「自白」。公判の途中で否認に転じたが、熊本地裁は懲役13年を言い渡し、90年に最高裁で確定した。 宮田さんが有罪とされた唯一の証拠は「(凶器の)小刀に切り取ったシャツ片を巻き付け、殺害後に燃やした」とする自白だったが、再審請求の準備中だった弁護団が97年、開示された検察側の証拠物の中から「燃やした」とされたシャツ片を発見した。 この新証拠が自白の信用性を揺るがし、19年に再審無罪が確定した。 ◇熊本地裁、検察の違法行為認定 宮田さんは20年、違法な捜査で長期間の身柄拘束を受けたとして国と県に国家賠償を求めて提訴。25年3月の熊本地裁判決は、検察官が公判でシャツ片の存在を明らかにしなかったのは注意義務に違反し、違法だとして国に約2380万円の賠償を命じた。 一方で県警の取り調べや捜査の違法性は認めず、国と遺族側がそれぞれ控訴した。遺族側は地裁判決が国に命じた賠償額を県も連帯して支払うよう求めている。 遺族側は控訴審で、検察官の公判活動について「シャツ片が残っていたことで自白が根本から崩れたにもかかわらず、有罪の疑いがあると誤って判断した」と批判。地裁判決は裁判に影響を与える可能性が明白な証拠の提出義務までは認めなかったが、遺族側は「無罪に直結するような重要な証拠を隠した」と訴え、検察官がシャツ片を法廷に証拠提出すべきだったと主張した。 これに対して国側は「シャツ片が存在しても被害者を殺害したという自白の核心部分は否定されず、自白の信用性に影響を及ぼすものではないと判断したのは合理性がある」と反論した。 ◇県警の取り調べに違法性は?争点 控訴審では、県警による任意の取り調べの違法性も争点となった。 宮田さんは逮捕前、計9日間にわたり約74時間(食事や休憩時間など含む)の取り調べを受けたが、地裁判決は、取り調べに当たった警察官が暴力やどう喝に及んだなどの事情はなく、「社会通念上相当な限度を逸脱したとはいえない」として違法性を認めなかった。 遺族側は控訴審で「(宮田さんは)長時間の執拗(しつよう)な取り調べの結果、自白を余儀なくされた」と主張。一方の県側は「連日長時間の取り調べはしておらず、自白は本人の意思だ」として控訴棄却を求めている。 弁護団の村山雅則弁護士(熊本県弁護士会)は「ずさんな捜査によって受けた甚大な被害を救済することが重要。証拠隠滅や取り調べの違法性を認め、冤罪(えんざい)を生まない抑止になるような判決を出してほしい」と期待した。【栗栖由喜】

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