現役大学生によるデビュー作品集から、本読みも歴史好きも満足させる短編集まで……書評家・末國善己が推す8冊(書評)

新鋭・米原信による芸道小説、夜間中学を舞台にした高田郁の感動作、歴史における虚構と真実の境界に問いを投げかける奥泉光の作品集、そして最新研究と創作を融合させた歴史小説アンソロジーまで書評家・末國善己が選ぶ8冊! *** 2022年にオール讀物新人賞を史上最年少で受賞した現役大学生・米原信のデビュー作『かぶきもん』(文藝春秋)は、化政期の江戸歌舞伎を題材にした連作短編集である。仲違いしている三代目尾上菊五郎(音羽屋)と七代目市川團十郎(成田屋)が人気を二分していた1819年。助六を演じる團十郎に、菊五郎が成田屋のお家芸である助六で対抗する「牡丹菊喧嘩助六」は、名優対決が読ませる。「菅原伝授手習鑑」の寺子屋の段で難しい松王丸をやることになった團十郎が、菊五郎に勝つため型に従うかそれを破るかで悩む「ためつすがめつ」は、王道的な芸道小説である。怪談をやりたい立作者の四代目鶴屋南北が、夏芝居で季節外れの忠臣蔵をやりたいと菊五郎にいわれ二つを併せた新作を書く「連理松四谷怪談」は、上演までの苦労が丁寧に描かれていた。いずれも史実をベースに物語を作っていて、ラストには史実を短く記した作品もある。それが読者を驚かせる仕掛けになっており、短編らしい切れ味がある。芝居の出来不出来よりもいくら儲かるかを心配する金主、贔屓筋の動向、舞台を支える裏方などにも目を配り、従来とは違う角度で歌舞伎界を切り取ったところにも確かな手腕を感じた。

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