アメリカでマリフアナ合法化の動きが勢いを増し始めると、社会は歓迎ムードに包まれた。この施策は刑事司法制度の負担を減らし、経済成長を促し、公衆衛生上の利益につながる進歩的な一歩だと喧伝された。合法マリフアナは闇市場を排除し、税収をもたらし、適切な規制を受けた安全な産業を生むと約束された。 だが、そんなことは起こらなかった。いま全米には幻滅が広がっている。違法な販売店は儲け続け、大麻取引関連の犯罪は増えている。さらに批判派は、市民は合法市場にあふれる高濃度マリフアナのリスクを知らされていなかったと主張する。 専門家、政治家、そして以前はマリフアナ合法化を支持していた人々までが、合法化した州は間違っていたのではないかと疑問を抱き始めている。薬物政策が専門のスタンフォード大学のキース・ハンフリーズ教授は、合法化は楽観的すぎる前提の下に市民に売り込まれたと言う。 「健康に害を与えないだけでなく、体にいいという触れ込みだった。市民に約束されたのは、多額の税金収入、雇用創出、規制の行き届いた産業の創出だ。そのうち、どれ一つとして実現していない」 ニューヨーク州での合法化は、進歩的なキャシー・ホークル州知事も「災害」と呼ぶ事態に陥った。いまニューヨーク市だけで約8000の違法な販売店があり、合法的な店は140ほどしかない。 「違法な店によって合法的な市場は著しく弱体化した」と、ハンフリーズは言う。「合法的な店よりはるかに安く製品を売り、監督を受けず、税金を逃れ、安全規制を無視し、テトラヒドロカンナビノール(THC)が高濃度の製品を未成年者に提供することも多い」。THCはマリフアナの向精神作用を担う成分だ。 2016年に娯楽用マリフアナが合法化されたカリフォルニア州にも、同様の問題がある。23年の調査では、州内で販売されるマリフアナの3分の2が違法市場のものであることが分かった。課税されない売り上げが数十億ドルあったことになる。 14年に合法化されたオレゴン州でも、違法市場は依然として強力だ。首都ワシントンでは約100の違法店舗が営業中で、認可された店の10倍となっている。合法販売ではカリフォルニア州を上回るミシガン州では違法な大麻栽培が盛んだが、取り締まりはほとんど行われない。