【ロンドン=黒瀬悦成】インドとパキスタンが領有権を主張するカシミール地方を巡り、両国の対立が激化し本格的な軍事衝突に発展する懸念が広がる中、両国の旧宗主国である英国のスターマー政権は、事態の沈静化に向けて介入を強める姿勢を打ち出した。 英国はインドと6日に自由貿易協定(FTA)の締結で合意したばかり。英国内ではインドおよびパキスタン系の住民が反目を強める事態も予想され、英政府としては混乱の拡大を何とか防ぎたい考えだ。 スターマー首相(労働党)は7日の下院答弁で「印パ間の緊張激化に多くの英国民が懸念を深めている」と述べ、両国に対して「対話と緊張緩和、民間人の保護」を促していることを明らかにした。 ラミー英外相も声明で、印パの外相と連絡を取り、「事態をエスカレートさせても誰も勝者にならないと明確に伝えた」とした。ラミー氏はまた、先月22日にカシミール地方のインド側支配地域で起きたテロを「非難する」と強調した。 一方、インド系のスナク前首相(保守党)は、インド軍によるパキスタン領内などのテロ拠点への攻撃について「正当(な行為)だ」と支持を表明した。 ロンドンでは7日、数十人のパキスタン系住民がインド大使館前で抗議デモを展開し、「モディ印首相はテロリストだ」「英国には仲裁の義務がある」などと訴えて気勢を上げた。 英イングランド中部のレスターでは2022年、ヒンズー教徒とイスラム教徒の住民が印パのクリケットの試合を巡り衝突し、約50人が逮捕された。英当局は、印パ対立が住民暴動の形で英国内に飛び火するのを強く警戒している。 21年の国勢調査によると、英国内に住むインド系は約193万人、パキスタン系は約166万人。その後も印パからの移民は増え続けている。 英国がインドのFTA締結に動いたのは、インドの経済発展を促して雇用機会を広げ、インド人が移民として英国を目指すケースを減らす思惑もある。 それだけに、印パ対立によって南アジア情勢が不安定化すれば、英政権の移民政策および貿易政策にも悪影響が及ぶ恐れが強い。