東京都文京区の東京メトロ南北線東大前駅で男性客を切り付けたとして殺人未遂容疑で逮捕された戸田佳孝容疑者(43)は調べに対し、動機として「親からの教育虐待」を挙げたという。 教育虐待は一般的に、保護者が過剰に進路選択や成績評価に介入し、子どもの人格を否定したり心身を傷つけたりする行為を指すとされる。 警視庁は容疑者の学歴や受験歴などについて現時点で不明としており、供述の真偽は定かではない。一方で、過去には教育虐待が事件につながったケースもある。 滋賀県守山市で2018年、看護師(当時)の女性が母親を殺害。女性は母親の監視下で9年間、大学受験のため浪人した。母親は進学後も試験の結果によって女性に土下座をさせ、「死ね」と罵倒した。21年の大阪高裁判決は「異常ともいえる母の干渉や監視があった」と認めて懲役10年とした。 佐賀県鳥栖市では23年、大学生(当時)の男性が両親を殺害。男性は事件後、中学受験を機に父親の暴力や説教が増え「いつか仕返ししてやると思うようになった」と訴えた。24年の福岡高裁判決は「虐待がなければ男性が犯行に及ぶことはなかった」と認めたうえで懲役24年を言い渡した1審判決を支持した。 虐待の影響は長期に及ぶとの見方もある。 虐待被害者支援に取り組む一般社団法人Onaraが23年に公表した調査結果によると、児童虐待の被害者のうち教育虐待があったと認識している人は3割強。このうち65%は、成人後も治療を受けていた。 Onaraの丘咲つぐみ代表理事は「虐待被害者の全てが加害行為に走るわけではない」と前置きした上で「親が望む大学や学部にしか受験を許さず、『合格しなければ大学に行かせない』などと迫る教育虐待の事例はよく聞く」と指摘する。 教育虐待という言葉が広まってから十数年たつが、まだ認知が進んでいるとは言い難い側面もあるという。 丘咲さんは「精神疾患やPTSD(心的外傷後ストレス障害)などの後遺症に苦しんでいる教育虐待の経験者も多いが、まだ世間の理解が足りず、周囲に相談しても『親に勉強させてもらったのだから感謝しないと』などと突き放され、精神的に追い詰められるケースもある」とし、「被害者が社会から孤立して悲しみや怒りを抱え込まないよう、居場所づくりや相談窓口などの支援体制の拡充が必要だ」と強調した。【木原真希、西本紗保美】