名古屋市中区のマンションのクローゼットで2023年11月、住人で古物商の阿部光一さん(当時42歳)の遺体が見つかった事件で、死体遺棄罪に問われ、先月無罪が確定した元ホストクラブ従業員の小山直己さん(24)が、読売新聞の取材に応じた。小山さんは一連の経緯を振り返り、「無実の罪を生み出さない捜査を」と語った。(大場暁登) ■「刑事の勘」 23年12月10日、愛知県警中署の一室で、小山さんは男性警察官と向かい合っていた。任意での取り調べは、6~7回目だった。小山さんには、阿部さんを殺害し現金や貴金属など計約7500万円相当を奪ったなどとして、強盗殺人と死体遺棄の罪で起訴された内田明日香被告(31)(公判中)と共謀し、遺体をクローゼットに隠した疑いがかけられていた。 この日はそれまでと違い、「きょうは長くなりそうだから予定はキャンセルしてほしい」と告げられていた。小山さんは「何もしていない」と否定したが、「刑事の長年の勘でわかる」と言われ、手錠をかけられた。 ■再現実験 小山さんは23年7月頃、内田被告と知り合った。ほどなくクラブで大金を使ってくれる「太客」に。小山さんは阿部さんが殺害されたとされる日の後、一緒に阿部さん宅を訪れていた。主任弁護士は「ホストと客、という関係からすると捜査機関が疑いやすい事件だったが、『遺体を隠すのを手伝ってもらった』という内田被告の供述以外、証拠が少ないと感じた」と振り返った。 公判で弁護側は、遺体を寝室からクローゼットに移動させて隠した状況に矛盾があるとして、再現実験を行った。 すると、内田被告の言う通りに遺体を動かすには部屋の大きさが足りないことが判明。被告が小山さんに渡したと主張した手袋もサイズが小さく、小山さんの手には入らなかった。 ■保釈は326日後 検察側は懲役1年6月を求刑したが、名古屋地裁は今年3月17日、「客観証拠と整合せず、内田被告の供述に虚偽が入り込んでいる可能性もある」と無罪を言い渡した。名古屋地検は控訴せず、判決は確定した。検察幹部は「2人の関係性などから、遺棄に関与している可能性が高いと考えた。判断は難しいが、無理やり起訴したわけではない」と述べた。 小山さんが保釈を認められたのは、逮捕から326日後だった。「最初から犯人という前提で話を聞かれ、人として扱われていないように感じた。閉じ込められるのが苦しすぎて、やっていなくても認めてしまう人もいると思う。 冤罪えんざい を生み出さないような捜査をしてほしい」と強調した。