【ライブレポート】¥ellow Bucksが2年越しリベンジ、JJJへの大きな愛に貫かれた「POP YOURS 2025」

5月24、25日に千葉・幕張メッセ国際展示場9~11ホールで国内最大規模のヒップホップフェスティバル「POP YOURS 2025」が開催された。 「POP YOURS」は「2020年代のポップカルチャーとしてのヒップホップ」をテーマとして、2022年に初開催され、今年で4回目を迎えたフェス。毎年その規模を拡大しており、ライブの模様はYouTubeで全編生配信されるとあって、開催期間中、ヒップホップファンの話題はこのイベントで一色になる。今年もチケットはソールドアウトし、会場には約3万5000人を動員。YouTubeでの生配信の視聴回数は180万回を記録した。この記事ではヘッドライナーを務めた¥ellow BucksとJJJのステージを中心に、今年の主なトピックをレポートする。 ■ SEEDAとPUNPEEがトップバッター 毎年、朝11:00にライブがスタートする「POP YOURS」。これまでトップバッターは主に若手が務めてきたが、今年の「POP YOURS」はいつもと違った。DAY1はシーンのレジェンド的存在であるSEEDA、DAY2はかつてのヘッドライナーであるPUNPEEがトップバッターに抜擢されたのだ。 最前線で活躍し続け、今年リリースした約13年ぶりのアルバム「親子星」で大きな話題を集めるSEEDAは、バイブスみなぎるパフォーマンスを繰り広げ、IOとD.Oを迎えた「OUTSIDE」や、亡きSTICKYとJJJへの思いを込めた「Kawasaki Blue」などに加えて、代表曲「花と雨」を披露。もはや恒例となっているが、途中フロアに飛び込む場面もあり、会場を朝からヒートアップさせた。 「POP YOURS」初回でヘッドライナーを務めた際は、赤い車に乗って登場し、観客を驚かせたPUNPEE。DAY2のトップバッターである今回は、足で地面を蹴って進む子供用の小さな車で現れて笑いを起こす。JJJとのコラボ曲「Step Into The Arena」などでフロアを盛り上げた彼は、「いきなり誰かいなくなっちゃったり、悲しいこともあったりするけど時間は戻せない」と告げると「タイムマシーンにのって」をパフォーマンス。ポジティブな空気で会場を包み込み、あとに控える若手ラッパーたちにバトンをつないだ。 ■ Kohjiyaら「ラップスタア」出身者が大活躍 近年の日本のヒップホップシーンを語るうえで欠かせないのが、AMEBAのオーディション番組「ラップスタア」の影響だ。番組は昨年の「POP YOURS」でヘッドライナーを務めたTohjiなど多様な才能を輩出しており、今年の「POP YOURS」でも数多くの「ラップスタア」出身者が活躍した。DAY1では昨年の「ラップスタア」でファイナリストとなった“ママラッパー”のCharluが磨き抜かれたラップスキルを発揮し、同じく番組で注目を浴びたTOKYO世界がニューカマー枠で出演。2021年の王者であるeydenや、2023年のファイナリストである7、彼女と同郷で「言った!!」が大ヒットしたMIKADOらも大きな歓声を集めた。 そんな中でもMVPと言えるほど大きな存在感を放ったのは、昨年の“ラップスタア”であるKohjiyaだ。出演者としてその名が明記されていたDAY2のみならず、DAY1の3House、KM、BIM、IOらのステージに客演参加し、2日間を通して大活躍。自身のライブでは、STUTS、Hana Hopeとコラボした「ポカリスエット」のCMソング「99 Steps」などを披露し、その後は唾奇のステージで「POP YOURS」オリジナルソング「PAGE ONE」を歌った。Kohjiyaは昨年の「Champions」に続き、2年連続で「POP YOURS」のオリジナルソングの歌唱アーティストに選ばれている。 ■ 強烈なインパクト残したElle Teresa&NENE グッズ販売や展示などのコーナーも大きなにぎわいを見せる「POP YOURS」。フードコーナーでは、同性を中心にカリスマ的な人気を集めるElle TeresaとNENEがYouTube番組「漢 Kitchen」で作ったオリジナルホットドッグが特に盛況で、購入者にはオリジナルカードもプレゼントされるとあって、屋台の前には常に長蛇の列ができていた。 そんなElle TeresaとNENEは、DAY2の昼帯に仲よく連続で登場。露出度の高いセーラー服風の衣装で現れたElle Teresaは、クラブアンセム「GOKU VIBES」などに続けて新曲「野良猫」を投下し、セクシーなダンスで熱狂を巻き起こす。続くNENEはKoshyプロデュースの「激アツ」収録曲を中心にしてステージを暴れ回り、カメラの前で大胆にM字開脚。ヒット曲「バナナボート」では、ド派手な取り巻きとElle Teresaを迎えて、センターステージまでの花道をランウェイのように行進し、大きな爪痕を残した。 またElle Teresaはフェス後半に再登場し、エモーショナルなスタイルで知られるswettyと「POP YOURS」オリジナル曲「I JUST」でコラボ。多彩なアーティストが出演する「POP YOURS」だからこそ実現した異色のコラボであり、普段は絡みがないであろう2人の絶妙な距離感も印象に残った。 ■ Jinmenusagi、KM、ANARCHY、唾奇らが初出演 例年多くの若手アーティストを幕張メッセの大舞台に立たせている「POP YOURS」だが、今年はlilbesh ramkoなどのニューカマーと並んでベテラン勢の初出演も目立った。DAY1ではネットカルチャーをルーツに持ち、卓越したラップスキルで人気を集めるJinmenusagiが初登場。彼はLunv Loyal、Bonbero、Tade Dust、Kraftykid、ACE COOLと実力派ラッパーばかりを客演に迎えながら、高速ラップで会場を沸かせ、最新曲「新しい友達いらない」を披露した。ライブ中、Jinmenusagiは般若やANARCHYを迎えたニューアルバムを制作中であることを明かし、さらに上を目指す姿勢を示した。 DAY1の中盤にブチかましたのが、プロデューサーのKM。「POP YOURS」では毎年KMがプロデュースした楽曲が何曲も披露されているが、彼がライブアクトとして出演するのは今回が初となる。DJパフォーマンスを繰り広げるのかと思いきや、彼はマイクを手にしてセンターステージに登場。LEX「力をくれ」、Mall Boyz「Higher」、JJJ「Eye Splice」といった人気曲のリミックスを流しつつ、ステージを駆け回って爆発的な盛り上がりを生み出し、Kaneee、Kohjiya、Yvng Patraを迎えたフェスオリジナル曲「Champions」も届けた。 意外にもANARCHYも今回が初出演。いくつものクラシックを生み出してきたANARCHYだが、そうした過去の楽曲ではなく、最新アルバム「LAST」の楽曲を中心にライブを繰り広げ、挑戦し続ける姿をアピールする。ANARCHYは最後に代表曲「Fate」で合唱を巻き起こすと、マイクを放り投げて退場。“キング”らしく自由で堂々とした姿でも観客を惹き付けた。 DAY2のトリ前を務めたのは、今年再始動を宣言し、精力的な活動を展開している唾奇だ。普段着のようなラフな格好で現れた彼は、新曲「南無阿弥陀仏」やKohjiyaとコラボした「PAGE ONE」などで観客を魅了。彼は「失ってからじゃないと気付けないことが大半だと思います。好きな人には好きって言うのも大事だし、バイブスチェックみたいなこともやっていけたら」と観客に呼びかけて「All Green」を披露すると「リスペクトを込めてJJJに回します」と告げて出番を終えた。なおライブ後には、唾奇にとって初となる東京・日本武道館公演の開催が発表され、チケットはほぼ即完となった。 このほか澄んだ歌声で知られるラッパー / シンガーの3Houseや、BAD HOP解散後にソロ活動を開始したBenjazzyやG-k.i.dもそれぞれ初出演を果たし、イベントを大いに盛り上げた。 ■ 2年越しに帰ってきた¥ellow Bucks DAY1のヘッドライナーを務めたのは、「ラップスタア」3代目王者である¥ellow Bucks。2023年の「POP YOURS」にヘッドライナーとして出演する予定だったが、出演キャンセルとなっていた過去があり、今回が念願のリベンジとなった。ヘリコプターが旋回するような音が響く中、特殊部隊のような衣装のダンサーが駆け込んでくると、¥ellow Bucksもその中に登場。「何のためにオレはマイクを持つの? ファンのためなんて言えば嘘になるだろう I just do it for me」とシーン復帰曲「I'm Back」をアカペラでラップし始めた彼は、「2年越しに戻ってきたぜ」と呼びかけ、このフェスを乗っ取ることを宣言する。 自身が出演キャンセルとなった際に代打を務めたBAD HOPのBenjazzyらを迎えながら、アッパーチューンを畳みかけ、そのラップスキルで会場を沸かせる¥ellow Bucks。パーティムードあふれる中、彼は「楽しくなっちゃったんでDJやってもいいですか? 朝5時の名古屋に連れてってもいいですか?」と問いかけると、本当にDJブースへと上がっていく。彼がDJに徹して「Miss Luxury」など自身の客演曲を次々につないでいく中、ステージでは過激な衣装の女性ダンサーたちがセクシーすぎるダンスを展開。会場はナイトクラブのような異様な雰囲気に包まれた。 eydenを迎えた「HOT BOYZ」でライブパフォーマンスを再開した¥ellow Bucksは、ダンサーに“逮捕”されてステージを去っていくeydenを見送りつつ、Kaneeeを迎えた「Blessed」などエネルギッシュな楽曲を怒涛の勢いで連発。自身が率いるクルーTo The Top Gangを前向きに解散したことに触れつつ、「あきらめ切れないものがあるなら、マジでそのまま続けてくれ。絶対チャンスがあるから」と観客に呼びかけた彼は、「俺はもっとデカくなるし、マイクを握り続ける」と意気込むと「My Resort」でDAY1を締めくくった。 ■ 観客が光の中に見たJJJの姿 DAY2のヘッドライナーとして出演が決定していたJJJは、イベント1カ月前の4月13日に35歳の若さで急逝した。しかし「POP YOURS」は彼の功績に敬意を表し、予定通りヘッドライナーとすることを決定。ラッパー / ビートメイカーとして、彼が日本語ラップシーンに与えた影響はあまりにも大きい。DAY1のトップバッターのSEEDAをはじめ、KM、kZm、BIM、Benjazzy、PUNPEE、Bonbero、Daichi Yamamoto、G-k.i.d、Yo-Sea、唾奇らがそれぞれのステージで追悼の意を表し、フェスは2日間を通してJJJへの愛にあふれたものになった。 そして迎えたDAY2のラスト、JJJのステージ。本人不在でいったいどんなライブが繰り広げられるのか。来場者と配信の視聴者が見守る中、ライブのオープニングを飾ったのは、JJJが生前に作り上げ、イベント直前にリリースされた新曲「dali」。気迫みなぎるJJJのラップが爆音で幕張メッセに響きわたり、ステージにはJJJのバックDJを務めるAru-2がスタンバイしているが、そこにJJJの姿はない。彼はもうこの世にはいないのだ。その事実が観客に重くのしかかる。 しかし、そこへ一筋の光が。まるでJJJがいるかのようにステージはスポットライトで照らされ、ありし日の彼の姿を観客に思い起こさせる。JJJのライブのサポートメンバーであった岩見継吾がウッドベースを鳴らし、JJJの盟友STUTSがMPCを力強く叩くと「心」が始まり、OMSBが登場。JJJの生前のライブ音源に背中を押されながら、フックを伸びやかに歌い上げたOMSBは「また会いたいよ、Peace yo」とつぶやいて去った。 真っ暗なステージに向かって大合唱が起こった「Eye Splice」に続く「Something」では、JJJの生前のオフショットが流れる中でCampanellaが「今現在リリックに込める自分と自分のその後 2025.4.13」とJJJの命日を刻み、「Find A Way」ではDaichi Yamamoto、「Cyberpunk」ではBenjazzyがJJJへの思いを発散させるようにラップ。「Beautiful Mind」ではステージの真ん中にピンスポットライトが差すと、その光はJJJが歩いているかのようにセンターステージに移動し、そこにゆっくりとスモークが落ちていく。 ステージに再びSTUTSが現れると、JJJのライブ映像が流れる中、「Changes」がスタート。JJJとSTUTSがそれぞれのステージで数え切れないほど披露してきた2人の代表曲だ。笑顔でJJJとのセッションを楽しんだSTUTSは吹っ切れた様子でステージを去り、もはや伝説的なユニットとなったJJJ、Febb、KID FRESINOによるFla$hBackSのライブ映像が流れると、無音の中、「Happiness to one and all」というメッセージが映し出されてライブは終了。クールなJJJらしく、過剰な演出を排した構成だったが、観客は胸を打たれた様子で、このライブを実現させたスタッフとJJJに拍手を送った。

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