偽の出会い系サイトや副業サイトを運営し、1万人以上から約53億円をだまし取っていたとみられる詐欺グループの「統括責任者」が、警視庁などに摘発された。捜査で明らかになったのは、まるで大企業のように細分化されたグループの複雑な組織構造。実態がつかみにくいとされてきた「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」の一形態が浮かびあがりつつあるが、「闇」の深さもうかがわせる。 ■家賃管理、クレーム対応部署も 運営する出会い系サイトで登録者の女性から現金をだまし取ったとして5月27日、組織犯罪処罰法違反(組織的詐欺)の疑いで警視庁と福岡県警の合同捜査本部に逮捕されたのは職業不詳、石垣勇輔容疑者(41)=東京都江東区。詐欺グループの幹部で、被害者とメッセージをやり取りする「打ち子」らの現場を統括する実務者のトップとみられている。 警視庁犯罪収益対策課によると、グループは少なくとも、副業を紹介するものを含めて4つのサイトを運営。これまでに85人が逮捕されるなど多くのメンバーが関わっており、「運営」「法務」「経理」などの各部門に分かれて〝一大ビジネス〟を構築していた。 「運営」は東京、埼玉、宮城、福岡などに設けた打ち子の拠点をまとめ、サイトの運営なども担当。「法務」は、被害者からのクレームや返金などに対応していた。被害者から詐取したカネを管理していたのが「経理」で、メンバーの報酬や拠点の家賃など、各部門の諸経費を調整。詐取金を組織内で還流させていた。 その組織構造は「当初は詐取金を引き出す『出し子』の拠点とみられていた場所が、捜査を進める中で、返金対応など他の活動をしている『法務』部門だと分かった」(捜査幹部)というほど複雑なものだった。 ■「手続き」名目で金銭吸い上げ 「詐欺ビジネス」の根幹をなす被害者から現金をだまし取る手口も、緻密に練り上げられていた。 出会い系サイトでは、登録者に「費用を支払えば異性会員と個人情報を交換できる」などとメッセージを送信。費用を支払った人にはさらに、個人情報の交換の際に「文字化けを避ける」「パスワードの認証を解除」といった手続きの名目で、「ダイヤ」と呼ばれるサイト内通貨を購入させていた。 一方、副業サイトでは「人生相談に乗るだけで報酬をもらえる」などとうたって被害者らを勧誘。「打ち子」が相談者を装って被害者にメッセージを送信し、被害者が助言すると、その内容をほめて〝副業〟にのめり込ませた。報酬が受け取れると信じ込んだ被害者らから、「報酬受け取り料金」や送金エラー防止のための「保証金」などの名目で、金銭を吸い上げていった。