学術研究や分析調査の成果に一般の人々がアクセスしたり、研究に参加しやすくしたりする「オープンサイエンス」が、経済安全保障上の新たな脅威となっている。公安調査庁の関係者は「オープンサイエンスが中国の諜報機関に狙われていることは、世界の常識となってきている」と指摘。関係機関や企業に警戒を呼び掛けている。 ■最先端技術の危機 国内外で確認されたスパイ行為を分析した結果などをまとめ、公安庁が年に1回公表する『内外情勢の回顧と展望』。この令和7年度版で、新たな脅威のキーワードとして挙げられたのが、オープンサイエンスだった。 分野や国境を越えた研究協力がしやすくなるメリットがあるとされるが、裏を返せば、軍事活動や営利活動に流用される危険を伴うからだ。 『回顧と展望』では、ドイツで昨年4月、中国国家安全部(MSS)のエージェント(スパイ)3人が逮捕された事件を紹介。ダミー会社を通じて戦艦用エンジンの最新技術研究を行う現地の大学と協定を結び、産学連携の枠組みを悪用していたと指摘し、経済安保の分野で中国が大きな脅威になっていることを具体的に例示した。 ■後絶たぬ不正輸出 国内でも、経済安保に絡む公安事件は後を絶たない。 警視庁公安部は昨年9月、中古貨物船の輸出先をアラブ首長国連邦(UAE)と偽り税関に申告した関税法違反容疑で、大阪市内の船舶売買会社役員を書類送検した。実際にはイランに輸出され、軍事物資の輸送用に転用された疑いもある。 同3月には愛知県警が、核兵器開発に転用可能な中古工作機械20台の性能を低く偽り、輸出許可申請を免れて中国に輸出した外為法違反の疑いで、既に死亡していた名古屋市緑区の貿易会社役員で中国籍の男を、容疑者死亡のまま書類送検している。 また大阪府警は同7月、軍事転用の恐れがあるため輸出が規制されている水上バイクをロシアに不正輸出した同法違反容疑で、貿易会社代表取締役でロシア国籍の男を逮捕した。 利益に目がくらみ、身分を隠して近づいてくる外国の工作員(諜報員)の誘いに乗って軍事上の禁制品を輸出する企業は後を絶たず、関係者は「日本の経済安保を脅かす事件は増える一方だ」と警戒を隠さない。